さやかもまたマントを翻して剣を出現させ四本を投擲するが全てはじかれて反対に突進されて紙一重で回避した。
「ウルッフーッ!!
ドンだけ人数が増えようがこのウルフルン様に敵う訳ねーだろがあっ!!」
排気ガスを撒き散らし、野太いハイパーアカンベェの声が耳障りに響き渡る。
「ハイパーッ、アカンベェーッ!!」
再び大型ダンプのハイパーアカンベェが走り出し、太い右腕を伸ばした。
スピードを上げ、狙いを一緒にいるキュアマーチとビューティに定めるとウルフルンが甲高く吠えた。
「避けられるもんなら避けてみなあっ!!」
マーチとビューティが左右に飛び退こうとするが、突然ハイパーアカンベェの目が光り、ハイビームで二人を照らしつけた。
「うわっ、眩しい!?」
「いけない、アカンベェの位置が!?」
二人はタイミングを挫かれ、ハイパーアカンベェのラリアットをマトモに食らってしまった。
『マーチ、ビューティ!!!』
ハッピー、サニー、ピースが声を揃えて叫ぶが、吹き飛ばされたマーチとビューティはマミのリボンで張ったネットが受け止めてアスファルトとの激突は免れた。
「ちっ、硬いボディで猪突猛進だけでなく目眩ましまで使うなんざ無駄に芸があるぜ!」
杏子が毒吐き、皆が焦りを見せ出す。しかし此処でハッピーは何かを考えているかの様に動かずにいたかと思えば、突然皆が予期せぬ行動に出た。突然ハイパーアカンベェの前に飛び出し、ウルフルンに呼びかけ始めたのだ。
「ねえウルフルン、わたしの聞いて!!」
意外なキュアハッピーの奇行にハイパーアカンベェの動きが止まり、ウルフルンの声がハッピーに応えた。
「何だ~、また俺様を油断させるつもりか?
同じ手に何度も…」
「バッドエンド王国に“休戦”を申し込みたいの!!」
またもやキュアハッピーの口から有り得ない言葉が飛び出した。近くに隠れていたキャンディも姿を現してキュアピースの側に寄り添う。
「ハッピー、どうして戦いを止めるクル!?
それじゃ“キュアデコル”を集められないし、
ロイヤルクイーン様を目覚めさせられないくクル!!」
ロイヤルクイーンとはキャンディの故郷であるメルヘンランドの女王で皇帝ピエーロとの戦いでその力を奪われ深い眠りについてしまった。
キュアデコルはアカンベェの力として利用され、そのデコル全てを回収しなければロイヤルクイーンは目覚めないのである。
今回、ほむら達に事情を話した上で助力を頼めたのだが…キュアハッピーである星空みゆきはいざウルフルンと対峙して何故戦意が湧かない理由を考えていた。
「ウルフルン、今わたし達…バッドエンド王国とは別の敵と戦ってるの。
敵は…わたし達と同じ人間、言葉では言い表せないくらいに酷い事を平気でする恐ろしい人達を相手にほむらちゃん達と一緒に戦ってる!
…だから、その人達との戦いが終わるまで待っていて欲しいの!!」
彼女の言葉を聞いたウルフルンだが、その心中はハッピーのあまりの腑抜けた提案として捉え、耐え難い怒りを渦巻かせていた。
「ふ…っざっけるなあっ!!
お前等に俺達三幹部がどれだけの苦汁を味わわされてきたと思ってやがる!?
テメエ勝手に休戦なんざされてたまるか、此処でギッタンギッタンにしてやるから覚悟を決めやがれキュアハッピー!!!」
此以上の耳は貸さないとウルフルンは咆哮し、ハイパーアカンベェを操り大きくジャンプ。キュアハッピーにジャンピングボディプレスを決めるつもりである。
『ハッピーッ!?』
プリキュア達とさやか、杏子が一斉にハッピーを守ろうとキュアハッピーを囲んで迎え討ち、マミとほむらが効かずともマスケット銃と弓矢で狙いを定めた。だが突然ハイパーアカンベェの全身からバッドエナジーが溢れ、元の大型ダンプカーに戻ってしまった。プリキュア達とさやか、杏子でダンプカーを受け止めて横倒しにし、ウルフルンも空中で一回転して着地して忌々しげに少女達を睨む。
「クッソ~、後少しだったのに~っ!
何でハイパーアカンベェが勝手に“解除”されちまったんだ!?」
「“私の仕業ですよ、ウルフルンさん”。」
何時の間にかウルフルンの背後に影が一つ現れ、一歩二歩と前に出た。
「貴方は…ジョーカー!?」
キュアハッピーと他の四人の表情が険しくなり警戒しているのが見て解り、魔法少女もまたジョーカーと呼ばれた道化師姿の男に只ならぬ気配と威圧感を感じた。
「キュアハッピー、貴女の提案を…“休戦協定”を受け入れましょう。
貴女方が【塔】を倒すまで…我々は一切の活動を停止致します。」
「…何でジョーカーが【塔】の事を知ってるの!?」
キュアピースの疑問にジョーカーはニコニコしながら答える。
「私共もまた、この国の異変には気付いておりました。
貴女方が不本意ながらもその異変に関わってしまった経緯もね。」
ジョーカーの不敵な笑みは周囲の者達を不快にする。…それは彼の仲間であるウルフルンも同じであった。