左手で雪の結晶を描き、右手に溜めたエネルギーを結晶に向けて解き放った。
「プリキュア・ビューティブリザードッ!!!」
ビューティより放たれた吹雪の濁流は三人を巻き込んで古きものに直撃する。小夜はその覚悟を決めた一撃を見、険しい表情で唇を噛み締めた。
そして彼女の必殺技の後には、その威力で催眠術が解け…反対に体内のワームによる激痛に苦しむプリキュア達の姿と、全身を彫像の様に凍らせた古きものがあった。
小夜は日本刀を右手に古きものの前に立ち、凍ったその首元に刀を突き入れた。すると古きものは首元からヒビが駆け走り、けたたましい音と共に砕け散った。
「右腕は治癒した様だが、無理はするな。
全身に激痛が広がるぞ?」
小夜はヨタヨタと揺れながらも立ち続けるキュアビューティに歩み寄った。
「ありがとうございます。
…でも、もう行ってあげて下さい。一刻を争う筈なのです、“私達”は大丈夫ですから…行って下さい。」
無理に笑顔を作るビューティの言葉を聞いた小夜は倒れている三人に目を向けると、サニー・ピース・マーチも激痛に苛まれるにも関わらず上半身を起こして憑き物が取れたかの様に小夜に笑いかけていた。
正気に戻ったサニーはニカッと笑いビューティと同じく小夜を促した。
「確かに体中痛いんはキツいけど意識もハッキリしとるし体もそれなりに自由や。
自分達の身は自分で守れる。
だからアンタの仲間、助けに行ったって…?」
小夜は険しい表情で俯くが、直ぐに四人を見据えて「すまない…。」と告げて真奈達を助けに向かった。
彼女が立ち去るのを確認したサニーとマーチは痛みに耐えて立ち上がり、ピースも片膝を付いて立ち上がろうとした。
しかし痛みに耐えかねたのか、涙をポロポロと落としながらペタリと座り…固まってしまった。
『ピース!?』
三人が心配して声をかけるが、キュアピースは歯をくいしばって泣きながらも立ち上がる。
「胸がね…、スゴく痛いの…。
わたし、みゆきちゃんに酷い事した!
みゆきちゃんを…わたしは!!」
そう言って号泣するピースに続き、マーチも目尻を濡らして頬に涙を伝わせた。
「わたしだって同じだ!
みゆきちゃんを傷つけて…、ちがう、みゆきちゃんを消してしまおうとしたんだ!」
痛みを省みず、マーチは強く拳を握る。ビューティも悔しげに顔を歪ませながら友に吐きつけた言葉を悔やみ、自身を痛めつける様に両腕を掴み締めつけた。
「私だってみゆきさんに恐ろしい言葉を言ってしまいました!!
そんな事一切思っていないのに…、わたしは…もうみゆきさんに合わせる顔がありません…。」
三人の悔しく苦しい気持ちが露わになり…その深さに沈んでしまうかと思えた時、突然キュアサニーが大声を上げて叫んだ。
「うわああああああっ!!!
気合いや気合いや気合いや!!!!
みんなその辺にしとき!
今は悲しんで間違いを正しとる時やない、生き残る為に戦う時や!!
確かにウチらはみゆきに酷い事してしもうた、催眠術なんて言い訳にならん、その前からウチらは…
いや、ウチはみゆきを引き戻すのを理由にして…戦いに背ぇ向けてしもうた!
こうも思うた、もうスマイルプリキュアは…解散なのかな…って…。
でも…、でも敵はそうは思うてくれへん。みゆきはそれが分かってて、自分の方に敵の注意をひきつけようとして怖がってたウチらを戦わせない様に自分からチミドロの戦いへ出てったんや。
…でも敵はみゆきが…、ウチらが考えとる程甘くはなかった。
今この時だってそうやっ!!」
声を張り上げてキュアサニーは振り返る。其処にはいつの間にか三体の大型の影と三つの人影が四人を取り囲んでいた。
キュアマーチは周囲を見渡し、憎々しげに呟く。
「古きものが三体も…、それに…っ!?」
マーチの言葉をキュアビューティが引き継ぐ。
「えぇ、あれは…食屍鬼(グール)!!
インコグニートに血を吸われてしまったあの人達の成れの果て…。」
星空みゆきを拉致した後にインコグニートに生き血を吸い尽くされた黒服の男達。膝を突っ張らせながら歩き、何かを求める様に前に両手を伸ばし、青白い肌に死臭を孕んだ呻き声は正に亡者そのものであった。
キュアサニーは激痛が走る度に膝を折りそうになりながらも“気合い”で踏ん張り、三体の食屍鬼の前に立ちはだかった。
「ごめんな、アンタらが彼奴に血ぃ吸われる様を見せつけられながら…
ウチらは見ているしか出来んかった…。
本当に、ごめんな…。」
頬に涙を伝わせるサニーは拳に炎を宿らせると、激痛の走る体で高く飛び上がり、食屍鬼一体の頭上から炎の拳を振り下ろし粉微塵に粉砕。寄って来た二体もまた蹴りと裏拳で頭部を破壊した。
「みゆきにも“ごめんなさい”…て、謝らなあかんのや。
だから戦う、戦ってみゆきの友達に戻るんや!」
サニーの決意に応える為にキュアピースも泣きながらも立ち上がり四人互いを背にして身構える。
だが突然頭上より少女の叫ぶ声が聞こえ、サニー達は真上を見上げた。
「みんなその場所を動かないでっ!!」
上空には曇天を背にした狩人風のコスチュームを着極した少女と数え切れない程マスケット銃が視界を支配し、マスケット銃のハンマーが一斉に火花を散らした。
マスケット銃より放たれた銃弾の雨はプリキュア達を三体の古きものに一斉に降りかかり全身から血を噴き出して絶叫を上げてその場に倒れ伏した。
…唖然とした表情で動かない怪物を見つめる四人の前に狩人姿の少女が舞い降り、挨拶をする。
「初めまして、暁美ほむらさんの仲間で巴マミと言います。
よろしくね、プリキュアさん?」
唖然とした顔は困惑に変わり、四人揃ってお辞儀をすると巴マミと名乗った少女は柔らかい微笑みを見せた。
「さて、詳しい話は後にして…。
私達は私達の戦いをしましょうか?」
巴マミは何処から戸もなく取り出した二挺のマスケット銃を両手に構える。…すると倒されたと思われた三体の古きものが血塗れの身体を起こして吼えた。
「まだ生きてる!!」
キュアピースが驚愕の声を上げるが、巴マミは特に表情も変えずに後ろのプリキュア達四人に向き直す。
「驚かないの。
あれだけ大きいんだもの、マスケット銃程度何十発と受けようと起き上がる事は出来るでしょ?
…でも此方も同じよ、貴女達は今こうして立っている。
私は貴女達がとても頼もしいわ、プリキュアさん?」
マミの言葉に四人は強い意思を込めて頷いた。
「えぇ、決して私達は負けたりは致しません!」
「あんな連中に負ける訳には絶対にいかないんだ!」
「みゆきちゃんが頑張ってるんだもん、わたし達だって頑張れるもん!」
「そやで、ウチらの本気は伊達やないんや!」
ビューティ、マーチ、ピース、サニーの強い闘志に圧倒される程でマミもまた負けじとその背にマスケット銃が並んだ翼を広げて両手のマスケット銃をクロスに交え戦闘態勢を取った。
「さあ、私達のターンよ!!」
暁美ほむらとキュアハッピー…星空みゆきは小夜に仲間達を託してインコグニートを探し、その途中で小夜の仲間で【塔】に情報戦で対抗している組織サーラットより敵の情報が寄せられた。ほむらは何かを思いついたのか、何処から戸もなく取り出した筒の様な物体五つに紐を括りつける作業を始めた。
ハッピーとキャンディは不思議そうに筒形を見つめ、ほむらに尋ねる。
「暁美さん、その筒は何かな?」
「なにクル?」
「“爆弾”よ。」
ハッピーとキャンディから血の気が引く。
『・・・ばっ、“バクダン”ッ!?』
キュアハッピーとキャンディはあまりの驚きに声が揃った。
「どうしてそんなの持ってるのっ!?
ソレどーするつもりなの!?」
動揺を露わにして慌てふためくキュアハッピーをほむらは無視して作業を済ませる。彼女の作成した爆弾は“嘗ての自分”が強力な武器を持たないが為に作成、使用していた武器である。使い所が難しい代物ではあるが、あれば何かしら便利で過去何度となく此で窮地を脱していた。
ほむらは紐を付けた爆弾を並べると光の矢を五本出して爆弾を吊し上げ、漆黒の弓を平行にし爆弾を吊した五本の矢を弓に乗せて光の弦を引っ張り構えた。
「星空さん…」
「今はキュアハッピーだよ、暁美さん。」
「じゃあ、キュアハッピー。
今からサーラッドから連絡にあった放送施設五ヶ所を同時に爆破するわ。」
「…へっ?」
文字通りのほむらの過激派宣言に呆けた顔となるキュアハッピーとキャンディ。ほむらはそれも無視して光の矢を五本錬成し爆弾を吊り上げると、漆黒の弓を左手に握り光の矢を構えて光の弦を引く。
漆黒の弓の頭頂部に矢と同じ色の炎が灯ると、ほむらは迷う事なく弓矢を飛ばした。爆弾を吊した五本の光の矢は五ヶ所の放送施設へ向かい消え、数分経たず五つの大爆発音が轟いた。
「…ホントに、やっちゃった…っ!!」
最早放心してしまう程にショックで目が点になり、更に呆けた顔で五つの立ち昇る爆煙を見上げるハッピーだが、ほむらにピンッと額を指で弾かれて正気を取り戻す。
「…いっ、痛いよ“ほむらちゃん”!?」
「ボサッとしてるからよ、直ぐに敵が来るんだから警戒して!」
ほむらは既に弓矢を構え、キャンディはキュアハッピーの髪の毛に身を隠し、ハッピーもファイティングポーズを取り二人は背中合わせになって周囲を見渡し、直ぐに異変は起きた。突如として霧が現れて視界を完全に塞いでしまったのだ。
ハッピーとほむらは背を付けてより警戒を強めるが、霧はゆっくりと晴れていき、視界が再び広がる。
「ヒイッ!?!?」
「チッ…、やられたわ!」
キュアハッピーが小さな悲鳴を上げ、ほむらは眉を寄せて悔しげに舌を打つ。霧が晴れた周囲は何と辺り一面をゾルゾルと“蛇”が地面を覆い尽くしてうねっているのだ。それを見てしまったキャンディは最早声も出せずにハッピーの首の後ろに完全に隠れてしまった。
この予想だにしないグロテスクな光景にはハッピーはおろか、ほむらも青ざめて体を強ばらせる。
何処から戸もなく聴こえる薄気味悪い含み笑いと共に蛇の大群を押し上げて地面が盛り上がり、人型となると蛇がバラバラとまた群れに落ちて戻る。
そして其処には薄紫のミイラの様な身体付きの全裸に全身を不思議な紋様で埋めた吸血鬼…インコグニートが薄笑いを浮かべて立っていた。
「恐ろしい娘達だ、さすがの私も建物全てを“爆撃”するとは微塵も考えなかったぞ?
ま~しかし、殺すには到らなかったがね。」
余裕を感じさせる態度ではあるが、その身体はあちこちに火傷があり、それなりのダメージを負ったとほむらは推測した。
「そう、わたしとしてはお前を殺すつもりでやったんだけど、
お前の様な卑怯者は一度姿を隠すとなかなか出て来ないからあぶり出せただけでも良かった事にするわ。」
インコグニートの能力はHellsing TV版とは違いクトゥルフ神話を絡めたものになっています。