同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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003. 中忍

 

任務と修行で充実した日々を過ごしていると、あっと言う間に半年が経ち中忍試験の時期となった。中忍試験とは一年に二回行われる昇格試験であり、明確な合格基準がある訳では無いため合格者が出ない年もあるらしい。

 

今回は原作のように他里と合同で試験を行うのではなく、木の葉だけでの単独開催らしい。戦争が終わったとはいえ、まだまだ何かと騒がしい今の情勢下では、他里に情報を与えるのは得策ではないとどの里も考えたのだろう。

 

シビ先生は俺達が受かるとはあまり考えてはいないようだが、経験の為にと推薦をしてくれたようだ。

 

 

 

 

 

試験日の当日、シビ先生から貰っていた推薦状を提出しにシズネ、トンボとともにアカデミーに向かった。提出場所は三階会議室のため、ひたすら上を目指し歩いていく。

 

途中、何人かが立ち止まっていたがそれを無視して、ただ黙って上に上がる階段に向かって進む。

 

「あ、あのヨフネ。何でそっちに行こうとしてるの?」

「それはここが二階だからだよ、シズネ。中忍試験の受付は三階だからね」

「え、ここが三階だよ」

「シズネちゃん、違うよ。ここに止まっている人達は幻術にかかっているんだよ。すでに中忍試験は始まってるみたい。少しの油断もしないようにね」

 

どうやらトンボも気づいていたようで、シズネにきちんと説明してあげている。このくらいの幻術すら見抜けない奴は中忍になる資格は無い、やはり原作どおり試験官達はそう考えているのだろう。

 

まあ確かにそれは正しい。階段を進む度になる鈴の音、踊り場にいたおそらくは変化したであろう中忍。ヒントは出してくれているのだ。むしろシズネは気づかなかったのか。中忍試験大丈夫か?

 

「おっと、待ちな」

「中忍試験を受けるつもりかい?辞めた方が良いよ、ケツの青い僕達」

「おっと勘違いするなよ、これは俺達の優しさだ。中忍試験は難関だぜ」

「この試験を受験したばっかりに忍を辞めた者、再起不能になった者を俺達は何度も目にしている」

「それに中忍といえば部隊の隊長となる事もある。任務の失敗や部下の死亡、それらは全て隊長の責任なんだ」

 

進もうとした俺達の前に二人の男達が現れて道を塞ぎ、高説を述べてきた。しかしあまりにもみえみえな脅しに思わず笑いそうになってしまった。

 

どうやらこの二人は脅し役に選ばれたようだ。こんなことさせられるなんて可哀想すぎる。自分が中忍になっても絶対試験官なんてやらないと心に決めた。

 

「脅し役、ご苦労さまです」

「あ、あの頑張って下さい」

「大変ですね、綱手様もあれは罰ゲームだって言ってました」

 

今度はシズネも気づいていたのだろう。声をかけていた。肩を落とした試験官二人を尻目に俺達は三階の一次試験会場の教室に進んだ。

 

 

 

 

 

教室に着くとそこには既に多くの忍が待機していた。その中には同期のアスマ達の班やオビトやリン、そしてガイ達の班の姿もあった。

 

アスマもこっちに気がついて軽く手を挙げてきた。ただどうやらみんな緊張しているようで、特に会話することなく俺達は教室の後ろの席に座る。

 

「みんなも受けるみたいだね、中忍試験」

「全員合格できれば良いけど……そうは行かないよね」

「何年も受けてる人も多いらしいぞー。まあ俺らなら何とかなるでしょ」

 

原作の中忍試験を思い出す限り、この班なら二次試験までは余裕だろうと思う。索敵特化の俺らには有利な内容だった、原作そのままなら。

 

毎年試験官は変わるようだし、体術中心の試験が出ると負けるかもしれん。

 

と考えていると、なんの脈絡もなくボンッと爆発音が上がり、煙幕が教室内に発生した。

 

「これから中忍選抜第一の試験を始める。志願書を順に提出して、代わりに座席番号の札を受け取って指定通りの席に着け。その後、筆記試験の用紙を配る」

「……ペッ、ペーパーテストォォォオオ!?」

 

ガイの悲鳴が木霊した。

 

 

 

一次試験はなんと純粋なペーパーテストだった。出題内容は各種任務を行うに当たって必要最低限の知識についてで、原作のように裏の裏を読むような変則的なものではなかった。その分、必要な実力が試されるが。

 

筆記テストの結果、合格したのは四十八名。ちなみに俺達の班は全員合格。同期のメンバーはアスマに紅、リンだけだった。やはりガイとオビトはダメだったようだ。

 

 

 

 

 

一次試験を落ちた者はその場で解散となり、俺達合格者が次に連れてこられた演習場は適度に身を隠すことのできそうな林だった。第二試験官は全員が揃ったのを確認して説明を始めた。

 

「まず第二の試験を始める前におまえ達にこれを配っておく」

 

試験官が懐から紙の束を取り出す。

 

「?」

「これは同意書だ。次に進みたい者はこれにサインをしてもらう。ここから先は死人も出るからそれについて同意をとる」

 

ニコリともせずにそう宣言した試験官。周りを見ると一気に尋常じゃない程の緊張感が漂う。しかし試験官はそんなことはお構いなしに説明を続ける。

 

「では、第二の試験の説明をする。その説明後にこの同意書にサインするように。サインを済ましたらあそこの小屋に行って提出しろ」

 

ああ、これは原作の様なサバイバルだな。でも班はバラバラになっているし、どうするのかと思っていると巻物を広げ試験官が説明を始めた。この演習場の地図だ。

 

「第二試験ではサバイバルに挑んで貰う。演習場は円状に囲まれてて一面が雑木林となっている。お前達は鍵のかかった六個のゲート入口からスタートしてもらう。広さは直径約1km。この狭く限られた範囲内であるサバイバルプログラムをこなしてもらう。その内容は各々の忍具や忍術を駆使した、なんでもアリの巻物争奪戦だ!」

「巻物?」

「そうだ。ここには四十八名が存在する。その一人づつに巻物を渡す」

「それじゃもしかして、こんな狭い範囲で一斉にバトルロワイヤルをやれってのかよ。合格者は一人なのか?!」

 

そこまで説明があって若い男の忍が叫んだ。

いや流石にそれはねーよと、俺は心の中でつっこむ。四十八個もの巻物運びながら戦うとか不可能だよ。ってか入口六個しかないんだから普通に考えてそれはないでしょ。

 

「まあそう焦るな、最後まで説明を聞け。この試験は合格者を一組六名に分けて各組で制限時間三時間の争奪戦を行う。一番早くにどのゲート入口でも構わないから三つの巻物を持って来た一名だけが合格となる。各組の勝者一名、計八名には次の三次予選に進んでもらう」

 

そう言うと“人”と書かれた巻物を受験生に見えるように掲げる。

 

「つまり、四十名は確実に落ちるってことか」

 

俺の言葉に試験官は深く頷き、人差し指を立てて言葉を進める。

 

「続いて、失格条件について話す。まず1つ目、一番に巻物を持って来た者以外」

 

続いて中指を立てる。

 

「2つ目、制限時間を過ぎても誰一人として巻物を持って来れなかった場合、全員を不合格とする!」

 

さらに薬指を立てる。

 

「そして、最後に。巻物の中身は入口を出るまで決して見ぬこと!」

「途中で見たらどうなるんですか?」

「見たらわかるさ」

「?」

「中忍ともなれば、極秘文書を扱うことも出てくる。信頼性を見るためだ」

 

試験官はトンボの質問を上手くはぐらかす。

 

「説明は以上!巻物は同意書と引き換えで渡す。その後、降り分けられた演習場の入口まで試験官が案内をする。二時になったら一斉にスタートだ!最後にアドバイスを一言」

 

試験官が一旦、言葉を止める。

 

「死ぬな!」

 

その言葉で受験者一同の顔付きが再度引き締まる。

 

「ではサインした者から順次、同意書と巻物の交換を行え」

 

その言葉をきっかけに交換した受験者達が割り振られていく。

 

俺も受け取りゲートで待っていると、目の前の試験官が時計を確認しながら鍵を外した。

 

「これより中忍選抜第二の試験……開始!」

 

俺は開門と同時に跳び込んで行った。

 

 

 

 

 

結果から言うと楽勝でした。管狐の相棒、コン平の能力はこの試験では反則すぎる。実はスタート前に他の受験者をコン平の分身に尾行させたのだ。

 

コン平は200m圏内に分身が近づくと分身がどこにいるのか把握出来る。そして近づいたことが分かると分身を解除するのだ。さらにだ、影分身と同じように分身の経験はオリジナルへと還元されるのだ。

 

つまりどこにいるのか、どんなトラップを仕掛けているのかそんな事が丸わかりなのだ!正直、試験内容聞いた瞬間勝ったと思ったね。

 

索敵を元に怪力による一撃必殺で奇襲をかけることで約三十分でクリアした。索敵能力に秀でた人がいなかったのも助かった。

 

同期で残ったのは俺にアスマ、そして意外なことに紅だった。すでに幻術の才能を開花させたらしい紅にとってサバイバル形式で行われた二次試験は相性が良かったのだろう。満身創痍になりながらも通過していた。

 

合格者が全員揃ったのを見計らって試験官が声をかける。

 

「まずは第二の試験、通過おめでとう」

 

最初に二次試験の説明を受けた演習場前の広場にはシビ先生などの担当上忍、それに今回の中忍試験の運営をしている試験官達。それらを率いるように中央に三代目火影の猿飛ヒルゼンがいた。

 

「それでは、これから火影様より“第三の試験”の説明がある。各自心して聞くように!では、火影様お願いします」

「うむ」

 

三代目は進行していた二次試験官に一つ頷くと重々しく言葉を連ねる。

 

「ではこれより第三の試験、本戦の説明を行う」

「本戦?」

「そうじゃ、ここまではあくまでも予選。第三の試験こそが本戦なのだ。本戦には周辺諸国の大名方などたくさんのゲストがこられる。そうだらだらと試合をするわけにもいかんでのう、二次試験までは八名以下にまで絞るための予選じゃったのだ」

 

ちなみに、ここ最近の中忍試験は戦時下で試験を受けられていなかった者を引き上げる意図があるようで、地力の差が出るような試験が多かったと説明された。

 

「それでは本戦の説明をするぞ。本戦は闘技場内でトーナメント方式での一対一となる。試合結果よりも大名方や儂、上忍達が試合内容を見て中忍に推薦できるか確認する。勝ち上がるほどアピールのチャンスが増えると考えよ」

 

さらには一ヶ月後の本戦を控えた面々は任務を免除され、それぞれ修行漬け出来るようにしてくれるらしい。おいそれと下手な試合を大名達に見せるなということだろう。

 

「試合の組み合わせに関しては明日発表する。これは一次試験と二次試験の内容を加味して優秀な者が上がりやすいように組むつもりだ。それでは各々研鑽を怠らず精進するように……解散!」

 

 

 

 

 

翌日、組み合わせを確認するとアスマか紅と当たるのは決勝となっていた。

 

何故かアスマからはアカデミーの頃からライバル視されており、二次試験終了後に決勝で会おう!と宣言されてしまった。

 

ちなみにシズネとトンボ、イビキは臨時でシビ先生の下、班を組んで任務を行うようだ。

 

原作組では不知火ゲンマや並足ライドウ、犬塚ツメといった面々が本戦へと駒を進めていた。ちなみに一回戦で対戦することになったのは犬塚ツメさんだ。

 

正直俺は中・遠距離戦で戦う手段が少ない。二次試験では奇襲をかけることで切り抜けることができたが、見通しの良い場所での一対一ではそれは通用しない。

 

さらには勝ち上がっても二回戦はおそらく相手は日向一族となるだろう。近接戦闘だと勝てる気がしない。何としてでもこの期間で中・遠距離の忍術を習得しないと。

 

風や雷の性質を武器に纏わすだけなら出来るがそのクナイを投げたところで決め手とはなりにくい。しかし威力が欲しいからと千鳥の様にチャクラを垂れ流しにしないといけない術は利用するつもりがない。というよりチャクラ量の少ない俺には利用出来るかどうかも分からない。

 

転生してきて他者より有利なのは知識だ。雷遁で電気も扱えるので、何とか科学の知識を生かしたい。チャクラ消費は最小限、もしくは瞬間的なものにして威力のある術…………あ、あれならいけるかも!

 

ようやく雷遁への性質変化もスムーズに行えるようになってきたので、俺は以前から構想を練っていた術を完成させる為、川へと向かった。科学の知識が必要なこの術は人に相談出来ないから一人で修行するしかない。

 

形態変化からの性質変化はイメージがしっかりしているためか、わりとすんなりと上手くいった。これからは実際に試してみて、あとは長く根気の必要な調整作業を行わないといけない。

 

 

 

一人で過ごす一ヶ月は長い。


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