同情するならチャクラくれ   作:あしたま

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022. 家族

 

今日は担当となった下忍達の家庭訪問をする事にした。本来であれば担当となる下忍と顔合わせする前に保護者と会うらしいのだが、俺にはそんな余裕はなかったので顔合わせした翌日に同じ班員を連れ添って各家庭を訪問する事にしたのだ。

 

「なあ先生、どっから行くんだ?」

 

キバと赤丸が纏わり付くように俺の周りをウロチョロしながら尋ねてきた。懐いてくれるのは嬉しいんだが犬が二匹いるように見えるぞ。お前に尻尾が見えるのは俺の気のせいか?

 

「お前達の家庭はそれぞれ名家だけど、まずは最も古い日向家からだ。キバは粗相するんじゃないぞ」

「へへ、任せろって!」

 

どうも不安しかないが、今の内に日向家の実状を知っておいてもらうのは悪い事ではない。ヒナタの悩みについて、ナルトが解決してくれるのを待つつもりはない。

 

「……凄い豪邸だ、自信が無くなる。何故なら俺の実家が物置小屋に見えるからだ」

 

日向家に到着するとシノがそう漏らした。自分の家にそれなりに自信があったんだろうな。自虐を言うとは思わなかった。まあ思わずそう言ってしまうのも仕方ないくらいの豪邸なのだが。

 

立ち止まってもいられないので、宗家側の門でヒアシさんに挨拶しに来た事を告げるとしばし待つように言われた。

 

「あれ連隊長じゃないですか!どうされたのですか?」

 

すぐに誰か走って来たと思えば、出迎えてくれたのは日向コウだった。連隊規模となってから猟犬に入って来たのだが、今では中隊長を任せている期待のホープだ。実直な性格と実力を買われて、猟犬に入隊する前はヒナタの付き人をやっていたらしい。

 

出迎えに来たコウだが、誰が来たのかまでは教えられていなかったのか驚いている。

 

「あ、コウさんは猟犬連隊にいるから先生の事知ってるんですよね」

「先生?……担当上忍になるとは聞いていましたが、まさかヒナタ様を担当されるのですか?」

「俺もいきなりで驚いてるだけど、そのまさかなんだよ。ちなみにこの二人は同じ班員の油女シノと犬塚キバだ」

 

そう言って二人の背中を押しつつ紹介した。キバはどうやら猟犬の中隊長って事で緊張しているようだ。俺に会っているんだから今更緊張することもないと思うんだが。

 

「あの連隊長……くれぐれもヒナタ様を潰してしまわないよう頼みます!」

「おい、俺がいつそんなに厳しくしたよ?」

「なんでもありません!ヒナタ様を宜しくお願い致します!」

 

猟犬の隊員達には出来ると思った事しかさせていないつもりなんだが、どうやら厳し過ぎたようで軍隊色が強くなっている気がする。そう考えると、なんだかんだ自分が一番多くを学んだ婆様のやり方を模倣しているのかもしれない。……やっぱり異常だったかな?

 

「それよりもコウさん……あの、早く案内しないとお父様が……」

「そうでした。ささっどうぞこちらへ!」

 

ヒナタがコウを促してくれた事でようやく屋敷の中に入れた。屋敷は昔ながらの造りをしており、さらに柔拳の総本山といこともあり道場まで併設されているとの事だ。今まさに稽古中だという事で俺達はその道場へと案内された。

 

「立てハナビ」

「まだそんな小さいというのに随分激しい訓練をなさっているようですね」

 

少しだらしない感じで髪を伸ばしている女の子がクナイを片手に全身に痣を作って床に這いつくばっていた。この子がヒナタの妹であるハナビらしい。確かまだ七歳程度だったはずなのに宗家の跡取りとして凄まじい訓練を積んでいるのだろう。

 

「そなたもこの年の頃は似たような訓練をしておったではないか?」

 

そう言われてみればそうかもしれないが、どうにも女の子という事を思うと可哀想な気がしてしまう。

 

「して今日は何やら挨拶があるとか」

 

俺達が入って来てから一度たりともハナビから目を離さなかったヒアシさんが初めて此方を向いた。この人はなんだかんだ言って、結局はヒナタとハナビの両方を大切に思っての事だったはずだ。しかしそうと分かっていても騙されてしまいそうになる態度だ。

 

「はい、ヒナタの担当上忍を私がやる事になったのでご挨拶にと。あとこの二人は同じ班員の油女シノと犬塚キバです」

 

今度は俺が促さなくても二人とも自然に頭を下げた。本能で偉い人だと感じ取ったのだろう。

 

「それだけか?」

「そうですね……あとヒナタは宗家のご令嬢、下忍とはいえ忍となる以上、死が付きまといます。私の命に代えても守り抜くつもりですが、生き残る為には訓練を積まなくてはいけません。どうやら私はその辺の配慮ができるような性格ではないそうなので、予め断っておこうかと思いまして」

「五歳下のハナビに負けるような、落ちこぼれは日向にはいらん。何処へなりとも連れて行くがよい」

 

あまりの言いように何か言いたそうにしているキバを目線で制する。今この場で何か言ったところで解決する問題ではない。とりあえず俺に任せてもらえるとの言質が取れただけで充分だ。

 

「では日向家よりもこちらを優先して自由に鍛えてもよろしいですか?私も柔拳は使えなくはないですし」

「好きにせい、と言いたいところだが柔拳が使えるとは知らなかった。他国から死神と恐れられる天才なだけはある」

「“不遇”という文字を付け忘れてますよ」

 

木の葉の里内でも名前が知られた俺に付けられた二つ名の一つが“不遇の天才”だ。ヒアシさんは俺が自ら不遇と付けたことには触れず、何か考えているようで顎に手を当てている。

 

「ふむ……コウ!」

「はい!」

「今からお前の連隊長と組手を行うが良い」

「はい?」

「え?」

 

どうにも安心させるつもりが余計な事を言ってしまったらしい。無関心を装っていたヒアシさんだったが、今は眼が白く輝いている気がする。

 

「お主が使う柔拳がいかほどの物か興味がある。今まで見る機会が無かった噂の実力を見せてもらおうか」

 

この人は他人以上に自分に対しても厳しいが、それ以上に純粋に強くなる事が好きなのだろう。だが宗家としてのプライドが素直に教えを請うという選択肢を選ぶには邪魔なのだ。俺としてもここで受けないという選択肢が無くなってしまった。

 

「じゃあコウ頼む。俺の柔拳は日向のものとは随分違うからな」

「白眼もないのに経絡系を狙って攻撃するなんて出来た方が怖いです。それで連隊長の柔拳ってあのえぐいやつですよね?大丈夫ですか?」

「無理?」

「無理です!」

 

日向家の使う柔拳とは、白眼と柔拳を併用する事で経絡系に対して効率的にダメージを与える事を基本としている。元々チャクラが多い部類に入る一族とはいえ、戦闘中に終始チャクラを放出していては枯渇するのが目に見えている為、現在の形に落ち着いたのだろう。

 

俺にはそんな真似が出来るはずもなく、身体強化の剛拳と柔拳を併用する事で何とか戦闘で使えるようにしただけだ。チラッとヒアシさんを見るがコウの意見は華麗にスルーされている。

 

「しょうがない、合図出すからちゃんと避けろよ。良いな?」

「絶対避けますっ!」

 

コウとそう確認を取ったところで俺はヒアシさんにも確認しないといけない事があった。

 

「道場壊れる可能性高いんですけど大丈夫ですか?」

「庭を壊された方が手間がかかる。まだここの方が壊れても大丈夫だ」

「さいですか」

 

どうも壊れる前提で話しているが、俺の技を見せる以上仕方がない犠牲だな、うん。それにヒアシさんの言う通り綺麗に手入れされた庭の方が取り返しがつかないかもしれない。

 

ヒアシさんに続いて他の人達は道場の端の方へと移動し、俺達は道場の中央に進んで対峙した。コウは両手を前後に広げる日向家特有の構え、俺は踵を少し浮かして半身とする所謂ボクシングスタイルだ。

 

「始めっ!」

 

日向は基本的にはカウンターを得意としているが、今回ばかりは技を見せる必要があるため俺から動かなければ意味がない。左右上下に細かく動きながら接近し、コウの間合いに入るタイミングで脚にチャクラを集中させ一気に飛び込む。

 

「させません!」

 

コウも当主の手前、下手な試合をする訳にはいかない。八卦空掌で俺の進行方向に牽制を仕掛けてきた。それを避けると思い左右どちらかに絞る事で対応しようと考えたのだろうがそうはさせない。

 

パンッ!

 

俺も左のジャブで飛んできているであろう八卦空掌に向けてチャクラを放ち弾く。外野で白眼を使って見ていたであろう三人は俺がチャクラを飛ばせるとは思っていなかったのか驚いているようだ。その反面、コウは元々分かってはいただろうが改めて表情が強張らせていた。

 

そして近寄らせまいとするコウは手数を増やす事で、制空権ともいうべき壁を作り出した。だが俺はそれを無視して身体強化した右ストレートを放つ。

 

「っち!本当にそのパワーだけは厄介ですね」

 

コウは身体強化の使用を把握したのか思わずそう言って、俺の拳を飛び退く事で避けた。柔拳使いの弱点の一つとして、純粋なパワー特化型に弱い事が挙げられる。しかし白眼を持つ忍であれば先程のように察知して避けられてしまう。

 

「となると今度は弱点その二だ」

 

俺の言葉にまた外野の三人が身構えるのが分かった。この組手はレクチャーの側面が強いのでしっかり見て貰うためにあえて口する。コウが改めて身構えた所で俺は地面すれすれを滑降するようにコウへと接近する。

 

コウは当然のように掌底を振り下ろしてくる。でもそれが弱点なんだよっ!

 

「グぁっ!」

 

振り下ろされた掌底にタイミングを合わせて、左のアッパーでカウンターを決める。日向の柔拳は緻密なチャクラコントロールにより、手数と威力を両立させた拳法だ。それに自信を持つのは当然かもしれないが、同時に弱点にもなり得るのだ。

 

攻撃の手数を増やすには腰の回転と地面を蹴る脚の力が必要となる。振り下ろすという行為は一見威力も増して有利な事に思えるが、柔拳使いにとっては手数を失う事にもなる。ここでの正解は蹴りだと思うが、自信を持っている為にその選択肢が頭にない。そうして敵の攻撃が読めていればカウンターなど容易い。

 

その結果、下からのカウンターが顎に綺麗に入ったコウは軽く宙に浮いていた。勿論だが当たる瞬間に身体強化は解いているし手加減もした。しかしこれでは俺の柔拳を見せつける事が出来ていない。仕方がないので倒れるコウに追い打ちをかける事にした。

 

「避けろよ!」

「ちょっ、ちょっと待って下さい隊長ぉ!」

 

手加減しても顎に入ったせいか立ち上がれないコウでは避ける事など不可能らしい。俺はとっさにコウの顔の横の床に向かって正拳突きを放ち床板が派手に割れる。

 

そして爆ぜた。

 

「「凄い……」」

「なるほど」

 

姉妹は仲良くハモり、ヒアシさんはしきりに頷いていた。三人は白眼があってまだ理解出来ているかもしれないが、シノとキバに至ってはただ呆然とするだけだ。とりあえず気絶しているコウを道場の隅に寝かせてから説明してやる。

 

「最後のは拳が床に当たった瞬間に身体に留めていたチャクラを押し出す事で、拳による外部破壊とチャクラによって衝撃を浸透させる内部破壊を併せ持った技だ。だから床の下から爆発したような事になってるんだ。人に対して使用すれば内部から破裂してしまうかもな」

 

戦闘では腕などを石化したり、水で防御膜を張る忍というのは結構いるのだ。そういった相手に対し内部から破壊する事も考慮して貫通力を追求した結果、柔拳に辿り着きホヘトと考案した技だ。

 

ただこれまた俺のチャクラでそう何度も使っていたらあっという間に枯渇してしまう。あくまで切り札的な使い方しかできない。それでもヒアシさんは珍しく上機嫌そうな表情でこちらに寄ってきた。

 

「ふむ見事だ。そこまでチャクラ放出が扱えるとはな。ヒナタを預けるには充分だろう」

「こんな感じで日向の物とはかなり違う物となりますが、ヒナタが望めばこういった技についても教えようと思っています」

「……よかろう、どうにでも好きに育てるが良い。全てお主に任せる。才能があるかどうかは保証せんがな」

 

仲間意識の強いキバがヒアシのあまりの言いように思わず口を開きかけるが手で制した。この人は宗家の当主としてこうしなければならないだけなのだ。目的は達成したし、何より俺が壊した床が気になって仕方がない。こういう場は早めに退散するに限る!

 

「ご了承頂きありがとうございます。それではまた」

 

俺はそのまま日向の敷地から逃げるようにして出た。敷地から出るとすぐにキバがヒナタに喰ってかかる。

 

「ヒナタ!いくら父親って言ったって、あんなこと言われて悔しくねえのかよ!」

「でも……事実だから」

 

やはりまだまだ気弱な性格をしているが、そこは俺が導いてやれば良いだけだ。ネジに比べれば才能は劣るかもしれないが、彼女自身の素質は決して悪くないと俺は思っている。

 

「ヒナタ、自分で限界を作るな。お前の限界は俺が測ってやる。とりあえずは俺を信じてついて来い」

「……はい、ありがとうございます」

 

死ぬ気で努力すればガイのような奴も生まれる世界だ。それでもダメなら猟犬として戦えるようになれば良い。

 

「キバもシノも心配しないで良いぞ、お前達にだって限界までシゴいてやるから」

「それはまだ良いんだけどさ……なあ先生、修行であの術俺らには使わねえよな?」

「……どうだろうな」

「えっ?ちょっ勘弁してくれよ!」

 

あんな殺す事しか考えていない技を使うわけが無いのだが、キバ達が怯えているので脅し文句に使えそうだ。黙っておこう。どうやらコン平も同じ意見のようで、竹筒から顔だけ出して赤丸に向かってニヤニヤしていた。

 

 

 

「さて、次に行くのはシノん家だ」

 

何度か来た事があるが、シノが自信を持つだけあって裏手に森も持つ広い家だ。

 

「なんだ俺の家が最後かよ」

「まあそういうな。今から会うシノの父親シビさんは俺の担当上忍だったんだ」

「……親父からそんな話聞いた事がなかった」

 

まあ元々話すのが得意な人ではなかったからしょうがないだろう。むしろ家で俺の事を嬉々として話している方が怖い。

 

チャイムを鳴らすと出迎えてくれたのは奥さんだった。この人は外嫁なので特にサングラスもしていない至って普通の人だ。いや、シビさんと結婚するぐらいだから、相当気が配れるという意味で普通ではない。

 

「お久しぶりです。今度は息子さんの担当となりました」

「この子もあの人に似てあまり喋らないから心配してたんだけど、貴方なら上手く扱ってくれそうだわ。手の掛かる息子だけどよろしくね」

 

まさに絵に描いたような良妻ともいうべき人をシビさんはどうやって捕まえたのだろう。今度そこら辺の事を教えてもらいたい。

 

奥にある居間に通されると既にシビさんが座っていた。何となく座るように勧められた気がしたので、座布団に座ってから挨拶をする。

 

「どうも今度は俺が先生やる事になりましたんで」

「そうか俺“は”何も言わん」

 

その言い方からすると、どうやら俺の担当上忍だった時は色々と婆様から言われたのだろう。薄々そうなんじゃないかとは思っていたけど……

 

「だがお前を思っての行動だ」

「はい」

 

どうもシビさんも俺達が不仲なのを知っているらしい。だがお互いに強情なので先に折れる事が出来ないのだ。

 

「まあ努力しますよ。とりあえずシノには期待してます。猟犬にいるムタもあいかわらず良くやってくれていますしね」

 

シビさんは俺の言葉に黙って頷いた。シノの担当となるのが俺で良かったかもしれない。俺ならシビさんのように無口らしいから言動を誤解せずに受け取ってやることができる。

 

「俺の方で教えられる事は全てやりますけど、蟲邪民具の術だけは先に教えてあげて下さい。すっごい便利なんで」

 

またもやシビさんは黙って頷いた。その後、出されたお茶の方を見た気がしたので一言断ってから飲んだ。奥さんが出してくれたお茶請けにも手を出して、落ち着いた所で家をあとにした。

 

「今日は機嫌良かったな」

「確かにかなり話していた。何故なら家族でもあそこまで会話しない」

「テメェん所はどんな家族だよ!」

 

 

 

「最後はキバの家だな」

「おっしゃー待ってました。ほらこっちだぜ!」

 

犬塚家は木の葉にある数少ない動物病院のそばに建っている。元は旦那さんがやっていた病院なのだが、ツメさんの尻に敷かれて過ぎて耐えきれなくなって出て行った今は娘のハナちゃんが代わりにやっているようだ。その病院の前には家に近づいた頃から見えていたが黒丸がこちらを向いて待っていた。

 

「黒丸久しぶり、元気だったか?」

「お前に潰された、右目以外はな」

「え?黒丸の右眼って先生が?!」

 

悪かったとは思っているが、いきなりその切り出し方はないんじゃないかな黒丸君。ただこんな態度だが決して嫌われているわけではないだよな。

 

「昔試験の最中にちょっとな。ほら特製の薫製肉持ってきてやったからそう言うなよ」

「ふん、今回も大目にみてやるか」

 

そうは言いつつ尻尾の振りすぎで土埃が立ってんだよツンデレめ。俺が燻製を渡すとひったくるように咥えて家の中に消えていった。……決して餌で釣っているわけではない。

 

「なんだよ先生、俺の家の事も知ってんのかよ」

「ツメさんは初めての部下だしな。それにお前の姉さんが赤ん坊の頃抱っこしたぞ」

「そうなのか?!」

 

これまで意識した事はなかったが、ここまでこいつらの家族と関係があるとなると何か運命的なものを感じざるを得ない。そう思っていると黒丸が知らせてくれたのだろう、ツメさんが玄関を開けて出迎えてくれた。

 

「まさか隊長がうちの子の先生をやってくれるとはね」

「今更隊長はやめてください。なぜか自分と関わりのある家の子達ばかりで、やりにくさを無くす為にも班員を連れてこうやって家庭訪問してます」

 

そういう意味ではカカシは楽だろうな、訪問する家庭はサクラの家ぐらいだ。ナルトはともかく、サスケもあの事件以降は三代目の保護下ではあるが一人で暮らしている。一族のみならず里の中には虐殺犯であるイタチの弟を引き取ろうという者がいなかったのだ。ちなみにタシはたまにナルトの面倒を見ている関係でカカシとは一応火影室であったようだ。

 

「あ、そう言えばまた薫製肉を持ってきてくれたみたいだね」

「基本常備してあるんで大丈夫ですよ。黒丸も可愛いし」

 

黒丸と会うと分かっている時は持っておくようにしている。一回忘れた時の黒丸の落ち込みようも可愛かったが。

 

「黒丸の事を可愛いって言えるのは、先生ぐらいだよ!そう言えば黒丸の右目は先生がやったのか?」

「コラ!キバ、あんた先生になんて口きいてんだい!」

 

間違いなく血を受け継いでますよ、と言えるほど俺は強くはない。それに訓練していく内にそこらへんは自然に改善されていくようなので心配はしていない。

 

「こいつが何かやらかしたら遠慮なくやっておくれ!この子は犬と同じで体に教え込まないと駄目だからね」

 

わかりやすい教育方針だ。この世界にモンスターペアレントがいるとは思えないが予めそう言ってもらえると安心できる。

 

「キバ!せっかく憧れの忍が先生になったんだ、しっかり教えてもらいな。あんたが想像するよりずっと苦労してるんだから。ねえ不遇の天才さん?」

「さっきヒナタの家でも言ってたけど、不遇の天才ってなんだ?」

 

やっぱり気になるよな。でも今から生徒になるって子に弱点をあまり教えて欲しくはないんですけど……

 

「ヨフネはね忍術、幻術、体術はもちろん医療忍術や結界術、封印術まで使える才能があるんだよ」

「凄えな、流石は猟犬の隊長!」

 

キバの尊敬の視線が凄くて居た堪れなくなる。こうなったら自分で言うか。

 

「だけど俺はその多くを使用出来ないんだ」

「どういう事だよ、才能があるなら努力すれば使えるだろ?チャクラがあれば」

「そう、俺はそのチャクラが少ないんだ」

「なるほど……だから不遇の天才なのか」

 

シノが思わず呟く。普段無口な癖にこういう時だけ素早く反応しやがって。

 

「だから普段使う術は消費が少ない術ばかりだ。だから俺も獣人分身は使えるぞ」

「先生マジかよ?!」

 

獣人分身は犬塚家の忍犬やコン平みたいにチャクラを持っている生き物がチャクラを練って、術者が代わりに印を結びチャクラをコントロールしてやれば自身のチャクラを消費する事がない。俺との相性はもちろん、コン平との相性も抜群だ。コン平もチャクラ量が多いというわけではないが、分裂にチャクラは使わないらしく擬似多重影分身を使う事ができる。

 

「それぞれの課題もある程度検討がついている。お前達に教えてやらないといけない事はかなりある。今から半年間は任務はそこそこにシゴいてやるから頑張れよ」

「半年……この子らがルーキーのタイミングで中忍試験を受けさせるつもりかい?」

 

ツメさんは懐疑的な目でこちらを見ているが、俺はこいつらは中忍試験を受けられるだけの実力がある事は知っている。逆に俺のせいで受けさせてやれないという事態はさけたい。

 

「まあ最近はルーキーで受験する班はいなかったみたいですが、今年は俺にカカシにアスマが担当上忍です。それくらいの気持ちでやらないとこいつらもライバルに置いていかれてしまうんでね」

「そういう事かい、こりゃ優秀な年代になりそうだね」

 

三人は何の事か理解できていないようだが、まだ知る必要はない。浮かれても焦っても良い事はない。

 

その後も少しツメさんと話してから犬塚家もあとにした。半年後は中忍試験……つまり木の葉崩しが起こるという事でもある。

 

どうやら俺に安息の時間はないようだ。

 

 

 

 

 

「なあ先生、先生の家にも行ってみたいんだけど」

「確かに……興味がある。何故なら俺達は先生の事をあまりに知らなすぎるからだ」

「お、シノと珍しく意見があうとはな。ヒナタも行ってみたいだろ?」

「行ってみたいけど、でも駄目だよ。迷惑だよ」

「えー、先生良いだろー」

「俺の両親は既に死んでるし、実家にいるのは木の葉の里の相談役をしている婆様だけだぞ」

 

「「「遠慮させて頂きます」」」

  





ほとんど日向家のお話でした。油女家は特に難しい……

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