俺達の班は担当上忍のシビ先生の考えで、探査系の任務や行商人の警護など班の特性を生かした任務を中心に行っている。また近場の任務を中心に数をこなしているから、充分に修行の時間も取れるように取り計らってくれているようだ。
修行内容は個人や家の方針に従って行われているが、その異様なまでの気遣いに婆様が何か言ったのではないだろうかと不安になる。
そもそもアカデミーでは座学が中心であり、戦闘に関しては体術、下級忍術、手裏剣術が中心でチャクラのコントロール等についてはほとんど習わない。あくまで基礎教養と適正を測る為の場所ということだろう。あとは各家庭や道場で修行を行うのが普通だ。
俺もご多分に漏れず婆様からしごかれた。一応、我が家にも秘伝忍術があるためだ。じゃないと誰があんな婆様とするか!
我が家の秘伝忍術、それは狐との契約だ。これは口寄せとはまた少し違う形で狐と契約する。いわゆる狐憑きの家系なのだ。どちらかというと油女一族と似ているかもしれない。だが、その事を婆様に言ったらシバかれた。
「それじゃ、うちって油女一族に近いの?」
「今度あんな一族と一緒にしたらコロス!」
「やめて!鼻から何か変な汁出ちゃう。もう言いませんから、ゆるひてくらはい」
そりゃもう憤怒を絵に描いたような婆様が出来たのでコレは禁句となった。でも差別は良くないと思うんです。
ちなみに契約は単純で遺体が契約した狐に喰われるというものである。忍の世界では死体の処分が確実に行われ、情報漏洩を防ぐことも出来るためノーリスクといっても過言では無いのだが、見返りとして神通力が得られるのだ。
だが俺の悲劇はこの契約から始まった。
五歳になったときに契約するのだが、契約する狐の格は個人の潜在チャクラ量によって決まるらしい。そして契約した狐の格によって神通力の効力が決まるのだが……
「く、管狐じゃと?!」
「婆様だめなの?」
目の前でチョコンとお座りしている体長20㎝ほどのクッソ可愛い狐にテンションMAXな俺だったのだが、どうにも婆様の反応が思わしくない。
「ヨフネや、わしは白狐といわれる妖狐と契約しておるのじゃ」
「うん。あの庭でよく寝てる白い狐でしょ。そういえば強いの?」
一応聞いては見るが、名前からして強いフラグがはためいています。まさか……
「妖狐には階級があり強い順に九尾の天狐、空狐、気狐、野狐とあるのじゃ」
「婆様の白狐は?」
「空狐に当たるかの。じゃがお主の管狐は一番下の野狐の中でもさらに一番下じゃ。いや、一族の中では契約にすら至ることの出来ない者もおったと聞く。捨てるなんてことはない。だからそんな泣きそうな目をするではない!」
記憶にある中で婆様が一番優しかったのはこの瞬間だと思う。まあ当時の俺はそれどころではなかった。
(えっ!せっかく転生特典といっても良いような能力が手に入りそうと思ったらこの仕打ち!?しかも将来的にもチャクラ量が少ないことまで判明してしまっとるやんけ!人生ハードモード過ぎんだろ。もうやだ泣きたい)
「この際だから説明してやろう。よいかチャクラ量とはな、生まれて来た時からおおよそ決まっておる、これをわしら一族は潜在チャクラ量と呼んでおる」
まあ、それは何となく分かっていた。千手一族なんかは生まれつき多かったはずだ。
「そもそも、チャクラとは人体を作っている膨大な数の細胞という物の一つ一つから取り出す“身体エネルギー”と、修業や経験によって蓄積された“精神エネルギー”の二つをバランス良く練る事で出来るエネルギーじゃ。つまり身体の成長や修業をすることで増やすことはできる」
おお、ならひたすら修業をすれば俺もナルト並みのチャクラが手に入んのか?!
「だが!それは主に修業や経験によって増える“精神エネルギー”だけじゃ。“身体エネルギー”は身体の成長の範囲内でしか増えん」
なら、毎日煮干し食って牛乳飲んで、睡眠をたっぷりとって大きくなれば……
「そこで出てくるのが潜在チャクラ量じゃ。細胞の一つ一つが持つチャクラの量自体はだいたい生まれつき決まっておる。それが潜在チャクラ量だ。つまりは大きく成長した所で潜在チャクラ量が少なければ、やはりチャクラは少ない」
えっ?フォローの流れだったじゃん。完全にとどめをさされたんですけど。
「ただチャクラのコントロールや練り方を訓練すれば、多少消費は抑えられる。結局は修業あるのみじゃ」
とまあそんなわけで俺は潜在チャクラ量はギリギリ中忍クラス程度らしく一番格の低い管狐としか契約出来なかった。野狐より上になると言葉を話せるようだが管狐はもうペット感覚です。あ、狐の名前はコン平にしました。
だが悲劇は終わらない。翌日、コン平と契約したことで出来るようになるという神通力の確認をしたのだ。まずは婆様が岩と言って構わないような庭石を持ち上げた。
「とまあ、これが念力じゃ。これを使用することで毒が塗ってある物など直接手で触れれない物も動かすことが出来る。契約した妖狐に関わらず共通の能力じゃな。契約した妖狐の格により力の強さが異なるがな」
「凄い!それじゃ僕もやってみる!」
意気揚々と岩の前に立ち使ってみる。
……岩の周りの小石が持ち上がりました。
「「…………」」
検証の結果、念力の範囲は身体の周り1m、何度やっても念力の力は手首の力程度。これでチャンネル取るのに困らないね!……ちょっと泣いた。
「ま、まだじゃ。次は固有能力、妖狐の種族によって異なる能力があるんじゃ!」
「コン平!何かないのか?頼むって!」
「コ、コン!」
「お、何かあるんだな?教えくれ」
言葉が話せないのでコン平の渾身のボディランゲージによるメッセージを解読した結果、なんと指を指した方向に火が出せることが判明した。目に見える範囲なら自由に火を出せるのだ!凄いじゃん!と感心したのも束の間、何度やっても出せるのはマッチの火程度だった、距離に関係なく。
ちなみに白狐と契約した婆様は透視眼と物体をも透過して取り出せる程の念力を使えるらしい。……めっちゃ不公平です。ただ、婆様が油女一族が苦手なのは、うっかり身体の中を見てしまい、彼らの身体の中が蟲だらけで吐いてしまったかららしい。
チャクラは必要としないので、メリットはメリットなんだが使い方がすごく難しい。
ただ能力は使えないかもしれないが、やっぱりコン平は出来る子だった。普段は腰に下げた30㎝程の竹筒にコン平は住んでいるのだが、なんと75匹まで分裂出来るため広範囲での索敵が可能なのだ!
ただし分裂した分だけサイズが小さくなるため最大まで分裂すると人差し指程度のサイズになってしまうのだが。ちなみに白狐様は分裂できないけどお空を飛べます。
俺はこの力があるからこそ索敵特化の班編成に組み込まれたのだった。
本当は使役する狐についての修行をするはずだったのだが、その時間が大幅に短縮されたため、アカデミー時代は木登りや水面歩行といったチャクラコントロールを中心に行っていた。
またチャクラコントロールの延長として婆様から身体強化についても教わった。これは本来、体の外に出すことで効果があるチャクラを体内に留めることで肉体を活性させ、さらには必要な箇所にチャクラを集める事で怪力が出るのだ。八門遁甲程ではないが通常では考えられない程の力を出せる。
「どおりで馬鹿力なわけだ!」
「そうじゃよ。ほれこの通り、わしの様なれでぃーでも敵の頭を持って持ち上げることが出来るのです」
「敵じゃないから。あんたの可愛い可愛い孫だから!ごめんなさい!本当にごめんなさい!」
ちなみに綱手様にこの術を教えたのはうちの婆様らしい。どおりで二人の折り合いが悪いわけだよ。
ちなみにこの身体強化は体外に放出するわけではない為、普通の術と比較するとチャクラの消費が少なかった。実に俺向きな術だな。
アカデミーの残り一年はこのチャクラの体内移動に特化して行った。今では素手で岩を割ることが出来るようになっていた 。
下忍になってからも婆様から修行をつけられたのだが、とうとう性質変化について習うようになった。初めて感応紙を使う時のドキドキ感はたまらんね!ちなみにあの有名な水見式をやってみたけど反応はなかった。少しは期待してたのに。
感応紙にチャクラを流した瞬間、皺がより、さらに紙が避けたのでもしや血継限界か!とテンション上がって思わず婆様に話したらバカにされ否定された。一生の不覚。
ただ単に得意な属性が雷と風の二つあるだけだった。血継限界なら五大性質以外の反応が出るらしい。修行次第では、異なる性質の術も扱うことができるらしく、上忍クラスになると二つか三つの性質変化を習得しているのが通例であり、三代目火影たる猿飛ヒルゼンは5つの性質変化を使うことができるらしい。
「性質変化はイメージ力じゃ。それが理屈っぽい奴より馬鹿な奴の方が習得は早い理由とワシは思っとる。人に言われたイメージのまま使うことも出来るが理屈っぽい奴ほど、自分でイメージを固めた方がチャクラの変換効率が良いぞ。というわけでお前は自分で考えろ」
珍しく婆様の説明に納得してしまったので、まずはイメージを固めることにした。
チャクラを多めに持っていれば気になる程のロスでは無いらしいが、チャクラ量には不安しかない俺はこの方法をとることにした。
雷のイメージはチャクラをバッテリーに見立ててチャクラと反応する事で電気として発現するといった具合だ。
風については自分の経絡系から風が吹き出るイメージで、ホースのように口を絞れば勢いが増すといった具合だ。
雷の性質変化の修行は新聞の折り込みチラシにチャクラを込めて皺くちゃに出来るように頑張った。おかげで思春期の男子の部屋のごとくゴミ箱が溢れかえってしまったが。
「まあ、なんじゃ綺麗に洗えよ」
「うっせーよ!まだ精通すら来てないわボケ!」
身体強化については相性も良い為もっと鍛えたかった。効率よく術を使うには身体の知識が必要だと思って、シズネに綱手様の予定を聞いて暇を見つけては修行をつけてもらっているのだが、いやもう本当に後悔してる。
最初はあの婆様の姉弟子だから、綱手様とは仲良く出来そうとか思ってました。俺のバカ。
大地が割れるほどの攻撃を紙一重で避けながら怪我したら自分で治せってなんだよ。身体の構造教えてくれるだけなら本でもいいじゃん。
「ハッハッハーあの小煩い婆さん虐められた恨みはらさでおくべきか!」
「えっ!ちょ!た、タンマです!想像してたんと違う!」
おかげで体術のスキルは上がったし、おまけで応急処置程度だが掌仙術まで使えるようになったのは嬉しい誤算。だけど精神疲労を考えるとマイナスです。
さらにはチャクラを使用しない戦闘ということで木の葉流剣術も習った。これに関してはかなり筋が良いらしく、メキメキと実力をつけることが出来ていた。しかしそうは上手くいかないのが俺なんだ。
身体強化を戦闘で使えるレベルまで鍛えたとき、強化しながら剣術を使ったら刀がもたないことが判明したのだ。そりゃそうだ、素手で岩を砕くような奴が刀使えば当然だ、少し考えればわかりそうなのに。さらに刀を持つより身体強化した方が強いという有様。それでも剣術は続けたけどね!なんかやめるのは悔しいから。
あとせっかくなので木の葉の三忍、自来也様からも教えを受けている。え?大蛇丸?あいつは無理!近づくとか無理ですから!なんて空気を常に出してるんですか。よくあれで慕う人がいるよね。近寄ったことすらない。目を付けられるのも嫌だしね。
しかもあの人はパワータイプ。大技までを器用に牽制に使って、フィニッシュもやっぱり大技。んな効率悪い戦いなんて出来ねーよ。
その反面、自来也様は意外とテクニックタイプで封印術や結界術、幻術まで満遍なく効率良く使いこなしている。それでもチャクラ量は馬鹿みたいに多くて力任せな部分もあるから戦闘は参考にならない。なので封印術と結界術を中心に教えて貰っている。
で、やっぱり一番上がったのは隠遁術。覗きに同行させるのが通常運転とか普通に頭は大丈夫か?とか思いながらもこの人が一番まともだったりするのが木の葉の三忍。
あとできるなら使いたかった口寄せの術に関しては管狐のせいで使えない事が判明。他との契約など許してくれないのだ。コン平が嫉妬するとか可愛い過ぎる。
そんなこんなで使えるのに実際は使えないって術が増える毎日です。
やってらんない。