「なんの騒ぎだ?」
祐介が寝ていた隣の部屋にいた彰一と加奈子が顔を出し、不安そうに表情を陰らせていた。祐介は、加奈子に見せるように、首を振る。
「分からない......少なくとも、あの異常者達じゃなさそうだけど......」
彰一は、その言葉を聞くと、身を翻して部屋に戻り、祐介と同じスタンドライトを手にして現れた。祐介と頷き合って、ジリジリと、廊下に敷かれた絨毯を削るような足取りで進んでいきながら、彰一が小声で訊いた。
「物音以外に、何かあったか?」
「ああ、誰かの怒鳴り声がした」
廊下を抜けた一向は、受付フロアに出た。どうやら、一階にいたようだ。パネルになった部屋番の番号を押して、入室する流れをとる、少し古いタイプのホテルだ。その鍵を受けとる皿が割れている。パネルも、あちこちが破損していた。床に散らばった破片も、汚れや踏まれた跡が目立たない。真新しさから、物音の原因はこれだろうと、祐介は結論付けた。だが、肝心の声の主がいない。
「おい......あれ、みろよ」
彰一が指差したのは、ホテルの出入り口に当たる自動扉だった。こういったホテル特有の薄暗い駐車場を、二つの光が、自動扉の前をまっすぐに伸びていた。
「......車かな?」
阿里沙が加奈子を鬼胎を隠すように抱き締めながら、細い声音で囁いた。なんとか、聞き取れた祐介は、自らの唇へ、ぴん、と立てた人差し指を当てる。
「少し待ってろ」
短く三人を止めると、祐介は生唾を呑んだ。仲間がいることで安心したのだろう、先程とは違い空気が喉を通る。
自動扉は、電源が切られており、開かなくなっていたが、扉の下部にある鍵も開いたままになっている。ガラスが割れていないのは、誰かがここを抜けた証だ。仮に平和な時間であっても、男女数人が潜む場所に鍵を掛けない筈がない。
祐介は、屈んで自動扉を両側に開いた。両扉をスライドさせると、侵入してきた生温い風と雨音が、底気味悪い心持ちを、更に煽りたてる。
「こんだけ言っても、まだ分かんねえのかよ!真一!」
突然の大喝に、心臓が飛びだすのではないか、という程に驚いた祐介は、同時に声に出てしまった。駐車場にある二つの影が一斉に振り返った。
いや、一人はトラックから降りる寸前だったのだろう。片足が、まだタラップに乗っている。
祐介とは、まだ距離がある上に、車のライトを背中に受けているので顔は分からないが、声の調子から、バツが悪そうに、その男が祐介へと手を差し出して言った。
「ああ、起きたのか、えっと......確か、上野祐介だったかな?」
最近、後書きになにを書こうか悩んでいますw
もう、おすすめ小説紹介だけしていこうかな……
やっぱりやめようw