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雨が降り始めた。早朝七時、いつもなら、すでにトレーニングに入っている時間だが、祐介は白いベッドの上で目を覚ました。一人用にしては、大きすぎるキングサイズのベッドだ。
ぼんやりとした意識の手綱を掴んだ祐介は、すぐさま布団をはね除け、絨毯が敷かれた床へ両足をついた。ピンクを基調とした室内には、簡易型のスタンドライト、シャワー室、トイレ、と必要最低限のものが揃っている。どうみても、そこは映画で見たラブホテルの一室だった。
訳もわからず、呆然とする祐介の耳に、ノックの音が響き身構えた。
そうだ、昨日の朝から、九州地方は地獄へと変貌を遂げているのだった。どうにか、生き残りグループを発見し、警察署からの脱出を成功させたはずだが、そこから先の記憶が、パッタリと途絶えていた。一体、なにがあったんだろうか。
祐介の思考を断ち切ったのは、もう一度、聞こえたノックだった。そこまで高級な部屋ではないのだろうが、室内には、それなりの広さがある。もしも、異常者が侵入してきた時に備え、祐介はスタンドライトを強く両手で握り、足音にも気を使いつつ、細心の注意を払いながら扉に近づいた。のぞき穴から、廊下を窺えば、そこにいたのは、見知った少女の顔だ。
胸に溜めていた空気を一気に吐き出し、背中を壁に預け、そのまま、ずるずると床に座り込んだ。
「あれ?祐介君、起きてるの?」
扉越しに亜里沙の声がした。祐介は、短く返事をしてから、気だるさを覚えながら立ち上がり、ドアノブを回した。
「おはよう、亜里沙......で、ここは現実か?」
「おはよう、祐介君、残念だけど、夢じゃないよ」
亜里沙は、スタスタと迷いの無い足取りで進み、祐介が寝ていたベッドに腰を下ろした。不謹慎だが、幼馴染みと、こんな場所にいることに若干の違和感がした。
祐介は、赤くなった顔を逸らして訊いた。
「なあ、その......ここはどこのホテルだ?」
「幸神だよ。二百号線から少し離れたホテル」
あっけらかんとした亜里沙の返答に、一人緊張していた祐介は、急に馬鹿らしくなり、溜め息をついた。拍子抜けし、亜里沙の正面に立つ。
「......警察署抜けてから、どうなったんだっけ?なんか、記憶がないんだよ」
「あはは、無理もないよ。二人とも、すぐに寝ちゃってたもん......助けてくれた二人組みは覚えてる?」
祐介は、振り絞るように頭を振って、ほんの少し間を空けてから言った。
「......ああ、覚えてる。確か、自衛官だったよな?」
亜里沙は、肯定として首を縦に動かした。
「そう。あのあと、二人が揉めてたんだけど暗くなったから、ひとまず、ここに身を隠すことになったの」
「奴等はいないのか?」
「大丈夫、そんなに数もいなかったから、安全だよ」
つまり、自衛官の二人組みが、ここにいた異常者を一掃したのだろう。祐介は、さすが自衛官だな、と感嘆を洩らした。しかし、その二人の姿がない。壁から背中を離し、扉へと歩き出す祐介の背中に、亜里沙が声を掛ける。
「今は行かない方が良いよ」
UA数15000及びお気に入り数140件突破ありがとう御座います!!!!!!!!
UA15000越えの記念におすすめ短編小説を一本ご紹介
「江戸川乱歩」「防空壕」という短編です。なんのシリーズに収録されているかは、覚えていませんが……(自分も人から借りたもので……w]
読了後の「は?え?マジで?うわああああ、これは……うわあああ!意地悪だな、乱歩さんよお……」って感想を持ちました。
推理物の代名詞的存在の江戸川乱歩、そのイメージを崩さないまま、見事に「一夜の出来事」を表現しています。タイトルから分かると思いますが、戦争中の話しです。ただ、江戸川乱歩=推理と思われてる方は、一度その考えを外して読まれることをお薦めしますw読んだら、忘れられなくなりますよ
ファンにしてみたら、これぞ!江戸川乱歩!らしいです……w
これからも頑張ります!!ありがとう御座います!!