感染   作:saijya

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第3話

 退職届けが、足元にあるゴミ箱へ落ちていく様を目で追い掛けていた田辺は、怒りで震える唇を必死になって動かそうとするが、それを制するように浜岡が被せた。

 

「責任をとる覚悟のない後輩を一人立ちはさせられない。先輩として当然の判断だ」

 

「しかし......」

 

「では、君がこれから先に起こすであろう行動の中で、誰かを不孝に落としてしまったらどうする?」

 

 浜岡の詰問で、田辺の脳裏に貴子の姿が浮かんだ。野田の一人であり、自分とも繋がりの強い少女だ。野田のマンションに到着した際に、貴子の笑顔を曇らせるかもしれないと考えた時間があった。その時に、果たして、そこまで深く考えていただろうか。いや、考えてはいなかった。ただ、映画やドラマのヒーローのように事件を追い掛けることしか、頭に無かったのではないだろうか。

 それは、もはや自己陶酔に他ならない。ついに、田辺は言葉に詰まってしまった。

 

「分かるだろう?君は自分の正義感に振り回されているんだよ。そんな君を一人にするのは、単純に危険なんだ」

 

 反論が出来ず、田辺は唇を噛んだ。未熟をついた浜岡の言葉は、心の深い所に大きな石を勢いよく投げ込まれたように、どんどん沈んでいく。

 自分自身をコントロール出来ない男が思い上がるな、そう牙を立てられてしまっている気分だった。

 

「......だけど、僕は事件を見過ごしたくはないんです。僕が記者になった理由は、理不尽に起こる事件を明るみにして、被害者の関係者に事実を伝え、少しでも何か役にたてるのではないかと......」

 

「なら、警察官になれば良い。記者である必要は全く無いんだよ?」

 

 静謐な時間とは程遠い、濁った空気が流れ始める。両者の間にあったわだかまりは、さきの浜岡の発言で理解出来た。焦点距離とは、まさに田辺自身のことだったのだ。

一度、自分を見直してみろ。自身の限界を知った上で、物事に取り組んでいけ、そんな意味だったのだろう。何度も思考した問題が、ようやく解決し、田辺は自分に落胆した。これでは、浜岡という簑を纏い、駄々をこねる子供ではないか。

 何も言えなかった。浮かれていただけだった。何が自由だ。与えられていただけじゃないか。

 責任をとることも、ましてや、その意味も理解していなかった事を田辺は痛感してい る。悔しすぎると、人間は涙すら流せなくなるのだろう。潤んだ瞳を隠す為に、田辺は目を瞑んだ。そこで、困ったような浜岡の声が聞こえた。

 

「......ここで君が涙を流していたら、簡単に手を引かせられたのだけれどね」




ウォーキングデッドシーズン4の一巻やっと借りれた……w
さーー、みるぞーーw

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