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あれから、もう一時間近くが経過している。祐介は気が狂いそうになりながらも、必死に正気を保っていた。
異常者の体力は無尽蔵なのか、押しかかる重圧は途切れることがない。それでも歯を食い縛っていられるのは、生き残った際の目標が出来たからかもしれない。
祐介は、ちらり、と背後に目を向ける。胸の前で両手を組み、祈るような眼差しでトラックが走り去った道を凝視する阿里沙の姿がある。加奈子もまた、阿里沙と同様に外を眺めていた。
彰一も腰を落とし、扉を押さえ付けている。
ここが踏ん張り所なのだ。
なにがあろうと、ここで諦める訳にはいかない。しかし、肉体には、体力には限界があった。徐々に、外からの圧力の強まってきている。腕が痺れ始めて、もう何分経過しただろうか。気が遠くなりそうだ。永遠に続くのではないのかとさえ思う。
パイプが軋む幻聴まで聞こえ始める。いや、それが本当に幻聴なのか判断することを脳が嫌がっているようだった。
早く終わってほしい、そう願えば願うほど、時の流れが急激に低下する。滴る汗が、頬を伝い顎から落ちる。普段なら気にもしない事も、鋭敏に感じることができる極限の状態は、本人達の意思とは無関係に、身体に異変を起こし始める。
彰一の足が、がくり、と崩れた。
「彰一!」
祐介が、僅かに気をとられた瞬間、扉の圧が強まり、ついにパイプがひしゃげる音が鳴った。
直感が告げる。もう、これ以上は保たない。扉の隙間から差し込まれた血塗れ腕が祐介の袖を掴んで引き寄せてくる。血に濡れた顔には、鼻や耳といった器官が、すっぽりと抜け落ちている。だが、ようやく手にした獲物を逃すまいとする力強さだけは、衰えることはない。
「この!」
祐介は、扉に強烈な前蹴りを入れ、身体ごと押し込んだ。垣間見えたパイプは、取っ手口から落ちかけている。閂としての役割を担うには、心許ない状態だった。
周りを見渡し、何か打開策になり得る物はないかと探るが、もう手詰まりだった。ただ広い畳部屋があるだけだ。
彰一が立ち上がり、身体に鞭打ち、祐介の加勢に加わるも、一度破られかけた勢いは止まらない。
祐介は、拳銃を抜いた。もう元人間だからと躊躇っている場合ではない。殺さなければ、こちらが殺される。
服を掴んでいた異常者の一人が、再び腕を伸ばしてきた。
祐介は、その手を避けると、一歩下がって、M360の銃口を異常者の眉間に合わせる。恨めしそうに、こちらを睨みつける濁った白い眼球に映ったのは、黒い穴だ。
覚悟を決めろ、唇を噛め、引き金に指を掛けろ、深く息を吸い込み、吐き出し、動揺を消せ。祐介は、目を見開く。
......そして、銃声が響いた。
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