助手席側から、ハンドルへと手を伸ばした矢先、穴生の商店街を抜ける十字路の手前で、トラックはガードレールに衝突した。スピードが落ちていたことが幸いし、損傷はバンパーが割れたくらいの被害しかない。だが、それは普段ならばの話しだ。
トラックを追っていた暴徒に加え、フロント側にも新たな暴徒が迫っている。真一は、浩太の肩を揺すりながら、ダッシュボードに銃身を置いて銃撃に入った。二人、三人と倒れはするものの、距離が離れ、尚且つ、片手での射撃に近い態勢では、望んだような成果は得られない。
このままでは、押しきられるのもそう遠くはない。
「浩太!頼む!起きてくれ!」
真一の呼び声は、もはや哀願に近かった。暴徒との距離は五十メートルもない。十数秒以内に、トラックは囲まれれてしまうだろう。激しい焦燥感に駆られる。忙しなく暴徒と浩太に移動する真一の顔には、汗も流れていなかった。それほど緊迫した状況の中、不意に荷台から声がした。
「......真一、浩太を頼む」
真一が小窓に振り返った時には、すでに荷台から達也は飛び降りていた。悲鳴のように真一は言う。
「おい!なにしてんだよ達也!」
「こうするしかねえだろ......安心しろよ。死ぬと決まった訳じゃない」
89式小銃のマガジンを落とし、達也は新たな一本を叩き込んで、安全装置を外した。
運転席には振り向かずに、右手を高々と挙げて叫んだ。
「来いよ!全員、俺に着いてきやがれ!」
途端、前方の暴徒達の濁った白目が、達也へ向けられる。寒気がする光景だった。
感情のない瞳に、晒された新鮮な肉を狙う狩人の鋭い光が宿る。ただ本能で動いているだけの集団にとって、より狙いやすいほうに集まるのは、当然の心理のように思えた。
「達也!荷台に戻れ!こんな人数に追われたら......」
「じゃあ、誰があいつらを助けるんだよ!お前らしかいねえだろうが!」
達也の怒声が響き、真一は言葉を詰まらせ、二の句が継げなくなった。達也は、さきほどとは違う、柔らかな音吐で続ける。
「俺なら大丈夫だ。絶対に生きてやるからよ......だから、あとは任せた」
言い終えると同時に、達也は数多の暴徒を引き連れて、穴生の商店街へと駆け出した。その後を数多の暴徒が追いかけた。トラックに乗る二人には、数人がフロントから手を伸ばしてくるだけだ。真一は、小銃を構えて、トリガーを引いたが、群がっていた数人に浴びせた数発の内に、カチリ、という無情な感触があった。
「くそ!くそ!くそ!くそおおおおおおおおお!」
真一は力の限り叫んだ。迫ってきていた暴徒の大半は、達也が走り去った商店街の路地へと吸い込まれるように消えていった。
あーー駄目だ。やっぱ真一好きだ俺w