祐介は、すぐさま窓枠から身体を乗り出し、藁にもすがる思いで両腕を振り回し叫んだ。
「おーーい!ここだ!ここにいる!」
「馬鹿!なにやってんだよ!」
彰一が祐介の口を塞ぐが、もう遅かった。武道場の入口が大きく軋みを上げ、続けざまに異常者の幾重にも重なった呻き声が扉を越えて響いてくる。少し押された扉は、中央に隙間を作り、その間隙なら異常者が指を何本も滑りこませてくる。まるで、その部分から人間の指が生えてきいるような、不気味な光景だった。
「この!頭おかしいのかお前は!こうなること位、すぐに分かるだろうが!」
彰一は、扉に身体をぶつけ、そのまま必死の形相で押さえつけに入った。再び閉じられた隙間に挟まれた異常者の指が、ポトポトと床に落ちる。だが、扉にかかる圧は強く、彰一一人では到底防ぎきれるものではない。祐介も加勢に加わり、阿里沙に懇願するように絶叫した。
「阿里沙!結んだカーテンをどっかにくくりつけて窓から垂らせ!」
トラックの運転手が気付いてくれているか、その意図を察してくれるかは賭けだ。
阿里沙は、なんとか抜けかけた腰に力を入れて走り出し、カーテンの裾を武道場の中央にある柱にくくりつけ、窓から放り投げた。
※※※ ※※※
「くそっ!数が多すぎるぜ!」
空になったマガジンを迫り来る暴徒に向けて投げつけた真一は、新たなマガジンを小銃に叩き込んだ。八幡西警察署の玄関まで、僅かな距離しかない。しかし、その距離があまりにも理不尽なほどに遠く思えてくる。
「浩太!荷台にも奴等がきてる!少し距離を空けられないか!?」
達也は、荷台に手を掛けた暴徒の顔面を蹴り飛ばし、89式小銃のトリガーを引いた。5.56ミリ弾が数人の暴徒に損傷を与えたが、頭部を撃ち抜けたのは、僅か三人だった。暴徒の人数には遠く及ばない。
再び、荷台によじ登りつつあった暴徒の一人が、達也のズボンを掴んだ。冷えた汗が背中を伝う。
悲鳴を交えた雄叫びをあげつつ、達也は掴まれた足を振り上げて、頭蓋骨を潰すように勢いよく踏みつける。靴底から伝わる確かな感触を感じる暇もなく、達也は荷台の奥に避難する。銃撃音が鳴り響く中、浩太が背後の小窓を見ずに叫んだ。
「手榴弾は!?」
「残りは三だ!使うにも距離が近すぎる!スピードを上げて距離を作れ!」
言いながら、達也は荷台に這い登ってきた暴徒三人へ銃弾を浴びせ、接近してきた一人は左手で胸を押さえ、額をナイフで刺し貫き、そのまま、死体を前蹴りし、新たに手を掛けていた数人を巻き込んで落とした。切羽詰まった声音に、浩太は怒鳴るように返す。
「三つなら上等!出し惜しみは無しだ!すぐにかましてやれ!」
「了解!」
祐介……うん、分かる。分かるよその気持ちw