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「こんなのは、どうかな?ここにあるカーテンを結んで下に降りる」
「駄目だ。下に降りた途端に囲まれて終わりだ......」
阿里沙の提案に、祐介は頭を抱えて俯いた。あれから、一時間が経過したが、実りのある脱出方法の案は出ていない。そもそもが厳しい条件下に置かれている。
まず、出入口を使用出来ないとなると、窓からの脱出しか手段がないのだが、降りたところで異常者の集団に対し対抗する手段がなかった。
祐介が持つM360の残弾は四発、頼りない数だ。彰一は、自身のナイフを逃走中に異常者に刺してそのままにしていた。実質、持ち合わせている武器は、拳銃一挺のみだ。
外に出るだけならば、いくらでも手段はあるが、その後、どうシミュレーションしようとも、異常者の餌食になる未来しか浮かばなかった。
「くそっ......せめて何があれば......」
何度目の悪態だろうか。
こんな時こそ冷静になれ。そして最も危ない橋を渡らずに済む道を探すんだ。
祐介は、父親の言葉を頭の中で反芻していたが、冷静になればなるほど、強い絶望感に襲われた。八方塞がりとは、まさにこのことかもしれない。
祐介は、武道場の入口を一瞥する。扉の隙間から流れる紅色は、畳の色を黒に染めつつあった。父親の死から二時間、現実をどうにか受け止めた祐介に訪れた最初の試練となった。
「なあ......彰一はなにかないか?」
相変わらず、窓から外を眺めていた彰一は、振り返る。
「ないから考えてんだろうが......それによ、考えるだけじゃなく行動もしろよ。カーテンを結ぶなんざ、すぐに出来ることだろうが」
苛立たしげに言ってのけた彰一は、留め具ごとカーテンを引き落とした。どうやら、気が参っているのは、彰一も同じなのだろう。何がをしていないと、気分が落ち着かないようだ。乱暴な原動に、加奈子が怯えたように一歩下がり、ばつが悪そうに彰一は舌打ちをして、カーテンを祐介へ投げた。
「端と端を固く結べよ。途中で破れたら笑い話にもなんねえからな」
言いながら、阿里沙にもカーテンを投げ渡した。受け取った亜里沙は祐介の分と合わせてカーテンを結んでいく。奇妙な感覚だった。これは、映画などで見た、なんらかの事故や事件から逃げる際に使用された手法だ。それを自分が行っているという事実は、訳の分からないなにかを、胸に捻り込まれているような違和感があった。
こうしている間にも、異常者の呻りは一向に減るような気配も無い。亜里沙が彰一に不満そうに言った。
「あなたも手伝ってよ。そこでなにをしてるの?」
彰一は少しだけ亜里沙を見たが、すぐにその視線を窓の外に戻した。溜息を吐き、小声で祐介に囁く。
「ねえ、あそこで何をしてるんだと思う?」
「さあな。でも、なんとなくだけど、あいつは意味の無いことはしないんじゃないかなって思ってる」
「その証拠は?」
祐介は言葉に詰まり、代わりに苦笑を送り、亜里沙は先程よりも盛大に溜息をついた。
GO!GO!パワフルー!
久しぶりに書きながら聴いてみたw
すごく集中力持って行かれたw