一台のトラックが八幡東区に入った。自衛隊仕様のカーキ色の荷台が、揺れて、トラックが左折する。運転手を勤めている浩太は、窓の外へ目を向けた。
どうにも、暴徒の数が少ない。桃園のテニスコートの周辺や、近場のアミューズメントパーク、そちらに集結している可能性も考慮したが、それも違うらしい。不穏な静寂の中、浩太がハンドルを握る。
「なあ、ちょっと静かすぎないか?」
助手席で煙草を吹かしていた真一は、窓から吸殻を指で飛ばす。
「ああ、確かに少ないぜ......なんつうか、嫌な予感がする......」
小倉を抜ける途中から、その異常には気付いていたが、二人はどうにも口火を切れなかった。この予感が外れであってほしいという願いも、ここまできてしまえば、いとも容易く水泡に帰す。大規模な、何かが起き、それがこの状況を作り出しているのだろう。荷台から運転席に繋がる小窓を開き、装備の確認をしていた達也が口を挟んだ。
「浩太、弾丸だが、もうあまり残ってない。どこかで補充しないと厳しい」
暴徒への懸念に、弾丸への憂慮、考えることは尽きない。目先の目的は、武器を潤沢にする、まではいかないものの、不安を僅かでも拭い去りたい気持ちもあった。
だが、日本は銃社会ではない。拳銃を一挺入手するだけでも、とてつもない時間と労力がかかる国だ。だからこそ、治安の良さは世界でも五指の指にはいれているのだが、今となっては、それが若干、障害になると思えた。浩太は、頭を振って気分を切り替えると、助手席の真一に尋ねる。
「なあ、どっか武器を置いている場所は分からないか?」
真一は思案顔になりつつも、それ以外目立つ変化もない。予め用意していたかのように、淀みなく言った。
「黒崎にあるとしたら、最近、家宅捜査に踏みいられたヤクザの事務所があったはすだぜ。押収されたとなると、多分、警察署だ」
「黒崎の警察署っていうと......」
「八幡西警察署だ。他には、確か二百号線の交番の真上に、銃砲店があったはずだぜ」
浩太は、紅梅の交差点で車を停めた。まっすぐに抜ければ、八幡西警察署、左に曲がれば国道二百号線へ入る分岐点だ。真一が訊いた。
「どっちにいく?」
「八幡西警察署だな。黒崎には市民体育館もある。避難している人がいるかもしれない」
「了解、達也もそれで良いか?」
「ああ。けど、奴等が多い場所は避けてくれよ。荷台に群がられたら、さすがに辛いからよ」
「大丈夫だ。生存者がいなければ無茶はしねえよ」
縁起の悪い浩太の返しに、達也は内心、冷や汗を流した。トラックは、紅梅の交差点を直進し、黒崎へと足を踏み入れた。
ああ……右腕の関節が痛いwww