小金井の申し出に、東は眉を寄せた。険しい口振りで小金井を睨みつける。
「素性も知れねえやつと手を組むなんざ、馬鹿のすることだ。しかも、死体愛好家だと?デニス・ニセルンにでもなってるつもりか?」
生と死の境界はどこでも明確に別れている。しかし、小金井は死体を愛するという人類のタブーをおかしているようだ。彼の中に、生と死の境は存在していないのだろう。
小金井は、東を見やり、訳がわからないと首を振る。
「東さんは、限りなく近い思考の持ち主だと思ってたんだけどな」
やや残念そうな小金井に対し、東は口調を変えずに返した。
「あ?犯罪者が犯罪者の心理なんか分かるわけねえだろ」
「じゃあ、聞き方を変えるよ。東さんが殺人で罪を感じる部分は、人を殺してしまったじゃなくて、殺すときに泣かせてしまって可哀想ってとこだったりしない?」
東は、押し黙り、大儀そうに溜め息を吐いた。突然、発生した事態に、押し留められていた嗜好のタガが外れたタイプだろう。獣欲に突き動かされていることが、すぐに分かる発言だった。
出来ればやめたかった。でもやめられなかった。他に何の喜びも幸せもなかったのだ。
記憶の糸を手繰り寄せ、東が思い出したのは、そんな言葉だった。
自分が異常であると気付いている犯罪者の台詞だ。異常と正常の境目で、長年、苦しんできたことが分かる言葉だ。
東も理解しようと、自分にできる範囲内で調べた。結果はあまり変わらなかったけれど、多少は、犯罪者という立場から話しは出来る。
生まれたばかりの小金井にはそれがなく、ただ、新しい遊びを覚えた子供のように享楽的になっているだけなのだろう。
しかし、そんなことよりも、東には、小金井に対して、腑に落ちない点が幾つかあった。
東も初めて会うタイプの人間なので、不用意な発言は控え、安部に判断を委ねるように一歩下がり、意図を察した安部は、一度頷き口を切った。
「我々にとっても仲間がいるのは、心強い。それに、貴方を救えるのであれば力を借しますよ」
出会った時のような笑顔で、改めて小金井は手を差し出したが、安部はそれを握らずに言った。
「条件です。我々の武器は、貴方に渡しません。私が、良し、というまで丸腰でいて下さい。この条件はのめますか?」
「そんなこと条件にもならない。もちろん、了承する」
安部は、今度こそ差し出された手を握り返した。その背中を眺めていた東は、安部を透かすように、その先にいる小金井へ鋭い眼光を送っていた。
ああ……疲れたw