感染   作:saijya

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第7話

 浩太の言葉を継いだ真一が、自分の頭を二、三回、こつこつと右手の人差し指で叩く。

 

「頭のイカれた二人組のサイコ野郎がいやがったんだよ。多分、奴等が乗り捨てやがったんだろうぜ。荷台の銃器は根こそぎ空になってる方に千円」

 

「じゃあ、俺は百円だな」

 

 笑いながら、浩太がカーキ色の布を捲った瞬間だった。突然、荷台の中から暴徒と化した男性の腕が飛び出し、浩太の首を締めた。慌てて倒れこみ、赤く染まった歯から距離をとると、暴徒の首を下から押し上げ、腰に差したナイフを手探りで探し出す。

 

「うおあああ!」

 

 渾身の力で、暴徒のこめかみへ刃を埋める。殴り付けられたように、暴徒の死体は、は浩太の隣に転がった。肩で息を繰り返し、浩太は上半身だけを起き上がらせる。

 

「この場合は、いくらだ?」

 

「冗談にするなよ......こっちは死にかけたんだぞ......」

 

 達也に手をかりて立ち上がる頃には、真一が荷台の奥からスペアタイヤと修理キットを持ってきた。手分けしてタイヤの交換に取りかかる。ジャッキを差し込み、真一が車体をあげ、ホイールの取り外しを浩太が担った。

 見張りをしていた達也が口を開く。

 

「なあ、タイヤの修理が終わったら、次はどこに行くよ?」

 

 ナットを締めながら、浩太は数秒だけ悩んで答えた。

 

「黒崎とかどうだ?あの辺りなら、誰かいるかもしれないだろ?」

 

「スペアタイヤだから、あまりスピードが出せない......大体、三十分くらいかかるぜ?」

 

 ジャッキを下げつつ、真一が口を挟んだ。タイヤ交換の一連の作業が終わり、浩太は一度、額に溜まった汗を拭う。

 

「なんにせよ、まずは生きてる市民を助け出すことが第一だ。こんなトラックにまで忍び込んでるような状況だし、ここには、あまり長居も出来ないだろ。まあ、とりあえずの目的地ってとこだな。あと、下敷きになってるトラックの銃も回収しよう」

 

「了解、なら、さっさとずらかろう。奴等、集まってきてやがる」

 

 達也の視線を辿った二人は、路地から現れた五人の暴徒を確認した。舌打ちをして、浩太が運転席に乗り込み、荷台には達也が乗る。助手席に座る真一が嬉しそうに煙草に火を点けた。

 

「ようやく、貧乏くじから外れそうだぜ」

 

 バン、と勢いよく助手席のドアガラスを暴徒が叩いたのは、その時だった。思わず、指に挟んでいた煙草を落とし、ズボンに穴を空けた。

 

「お前、馬鹿だろ」

 

 荷台から聞こえた銃声を合図の代わりに、浩太はアクセルを踏む。黒崎にいる四人の少年少女の存在を、三人はまだ知らない。だが、確実に運命の歯車が軋んだ音を鳴らし始めたことだけは、間違いない。暗い洞窟の中を歩くような感覚に変わりはないが、一筋の光明を目指して歩き続けていくしかない。

 いつしか、光が差し込むことだけを信じて、浩太はトラックのスピードを僅かにあげた。




次回から第8部に入ります

いやあ、がっこうぐらしねえ……
びっくりしたよねえ……w

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