真一が息を抜くような頓狂な声を出した。達也は目を丸くしている。突拍子のない浩太の発言には、食って掛かるのも馬鹿らしくなり、二人は俯いたまま、深く溜め息を吐き出した。
「ちゃんと聴けよ。理由もある。まず、もしも、旅客機を落としたのがミサイルだった場合だ。これは、すぐに分かるだろ?」
「......なんで分かるんだよ」
蚊の鳴くような声で真一が訊いた。浩太は右手の人差し指を立て、くるくると回す。
「レーダーだ。小倉の駐屯地にもあっただろ。撃ち出されたミサイルに搭載されたセンサーを感知する。だが、もし反応していたら、誰かしら気づくだろ?」
言葉を区切り、二人の返事を待つが、無反応だ。まだ、立ち直れていない。浩太は、仕方がないとばかりに首を振って続けた。
「つまりさ、旅客機を墜落させたのは、ミサイルじゃないんだ。もっと小さな、人が撃てるようなやつ。例えば......カールグルタフとか......」
達也が鼻で笑う。
「いや、よく考えろよ?重火器の持ち出しは隊長や、その他、いろんな方面の許可がいるんだぞ?おいそれと持ち出せるもんじゃないだろ」
黙然と浩太と達也の会話に耳を傾けていた真一が、顔をあげた。驚愕の色を漂わす顔付きに、達也が眉を寄せる。
「真一は気付いたみたいだな......」
未だ一人、理解が追い付いていない達也は狼狽し、視線が宙を彷徨い、浩太で定まる。
「良いか?達也、一人だけだ。一人だけ使用許可を飛ばせる奴がいる。お前も言っていた奴が......」
「俺が?言った?」
達也は、自分の台詞を思い返し、瞠目した。そうだ、確かにある男を一例に挙げていた。鵜呑みにはしたくない。青ざめた達也に、浩太が力強く断言する。
「そうだ......今回の一件、この黒幕は、隊長の新崎だ」
※※※ ※※※
東京は慌ただしさに包まれた。配られた新聞には、九州地方に謎の奇病が蔓延、という内容の報道が一面を飾っており、様々な有識者がニュース番組で、議論を交わしあっている。そもそも死者が動き出す訳がない。きっとなんらかの原因なあるはずだ、そう喚き散らす男性を写すテレビを、田辺はリモコンで切った。憶測しか出来ない状態で、議論してなんになるのやら。
九州地方への立ち入りが禁じられている今、田辺は不思議な感覚に溺れていた。同じ国内にいながら、他県の国民は、まるで祭りのように囃し立て、自分の好き勝手に話しをしている。
明日は我が身というのが分からないのだろうか。
九州地方感染事件と銘打たれた騒動から、かけ離れた場所にいる人間に、現地がどれだけ苦しんでいるのかは分からない。いや、それは、まだ何も進展していない自分も同じだと自嘲した。
だからこそ、田辺はこの事件に真摯に向き合い、隠れた何かを暴き出すと決めたのだ。少しでも現地に住む住民の助けになるのなら、それが記者としての自分の役割だと拳を握った。
バレバレだったかもしれない……w