「気にすることってなんだよ?」
達也が苛立たしげに訊いた。浩太はしばし逡巡するが、いきなり結論を口にするのは混乱を避けるためにやめた。
「まず、第一に星条旗があったってことは、日本が今回の事件に一枚噛んでるのは分かるな?墜落したニュースでキャスターが言ってたのは、厚労省で管理されていた薬品、つまり、国の救助はない。そして、脱出するルートも狭まっていっている。飛行機や新幹線とかも停められているだろう、ここまでは良いか?」
二人は揃って肯首する。
「なら、次の疑問だ。何故、あの旅客機が墜落したのか?」
「単純に事故だった、じゃないのか?」
真一の回答に、思い当たることがある節があるのか、達也がはっきりと首を振った。
「いや......そう言えば下澤さんが気になることを言ってたな。誰かが人為的に起こした事故だと思っているとか......」
「理由は聞いたか?なんとか思い出せないか?」
浩太が食い気味に身体を乗りだす。僅かに反応が遅れ、達也が後退り、申し訳なさそうに続ける。
「悪い、ちょうど奴等が基地に集まりだした頃で、それから先は聞けなかったんだよ......」
沈痛な面で、達也は項垂れたが、看板に残ったミサイルの着弾点を見上げ、目を覚ましたように早口で言った。
「思い出した......墜落した機体の右翼が破損して、燃え上がった焦げよりも、巨大な何かが爆発したような丸い焦げ跡があったらしい」
達也の言葉に、三人は上を向く。あるのは、丸い焦げ跡だ。合点がいった真一は、悄然とした様子で地面に座り込んだ。
「なんだよそれ......なんなんだよ!それはよ!」
身を焦がす憤懣が、真一や浩太、達也から声を奪った。
要約すれば、国が例の薬品を積んだ旅客機をなんらかの目的で墜落させ、この事態を引き起こし、証拠隠滅を計り九州地方を隔離した上で、アメリカに生存者の抹殺を任せた、という図式が成り立つ。
得心がいく訳がない。納得できる訳がない。九州地方にあった多くの命は、ミサイルを撃つための指先一つ動かしただけで汚れを洗い流すように洗浄された。それは命を弄ばれたに等しい行為だ。震える拳をぶつける相手もいない。悪罵を投げることもできない。ただただ、その現実を突きつけられた浩太は、ぎりっ、奥歯を噛んで言った。
「言いづらいことはまだあるんだが......」
浩太は確認するように低い声で呟いた。
「......なんだよ。もう、何がきても驚かねえよ」
力なく返したのは、達也だ。へたり尽くした目を浩太へ預ける。
「ああ、だよな。じゃあ、衝撃の事実、その二だ。多分、旅客機を落としたのは、俺達の仲間だった誰かだ」