それは、正義感か使命感かは、分からない。だが、田辺はこれが記者としてのあり方と信念を持って活動している。午前、十時三十分、浜岡のアドバイス通りに、田辺は一度自宅へ戻る途中、田辺はホット缶コーヒーを購入し、一気に飲み干した。
実りの少ない取材ノートを読み直す振りをして、部屋で数時間、意味の無い時間を過ごすのも慣れたものだ。
厚労省の大臣という重要なポジションに就いている久しぶりに会う同級生、野田は一体どんな顔をして出迎えてくれるのだろうか。間違いなくいい顔はされないだろうが、聞けるだけは聞きだしてやろう。それが俺の仕事だ。
田辺は自宅の玄関を開けると、クローゼットからクリーニングしたばかりのスーツを引っ張り出し、髭を剃って横になった。
※※※ ※※※
「うっ......」
真一が、目を覚まして最初に見たのはカーキ色の天井だった。痛みが強い後頭部を抑えてみれば、ぬるりとした感触がする。衝突した時にぶつけたのだろう。
次に、四肢の動きを指先からゆっくり確認した。骨折のような怪我はないようだ。身体の上に乗った銃火器を押し退け、運転席に繋がる小窓を開く。
「おい......お前ら無事か?」
数秒して、浩太の曇もった返事があった。
「ああ......はは、奇跡だな......生きてる......」
「何が奇跡だよ......無茶苦茶な指示出しやがって......」
「生きてるだけで、儲けもんだろ」
瓦礫が崩れる音がした。浩太がドアを開けたようだ。二、三度咳き込んで、腰からナイフを抜くと、荷台を覆うカーキ色の布を切り裂き、真一を下ろした。
達也が、エンジンをかけようと何度か鍵を回すが、空回りを繰返す。苦々しくハンドルを拳で叩く。
「くそ!イカれちまったみてえだ!」
「......しょうがないだろ。幸い、タイヤは無事なんだ。変わりになる足を探すしかないな」
「そんなもんどこにあんだよ!」
浩太に苛立ちをぶつけた達也は、はっ、と自分の口を塞ぎ、小さく呟くように謝罪した。度重なる命のやり取りに精神が磨耗しているだろう。浩太は、首を振ってみせると、真一が口を挟んだ。
「とにかく、ここから出ようぜ」
埃を叩く仕草をする。崩れた柱や壁がトラックに寄りかかり、どうにかバランスを取っている状態だ。少しでもズレると傾いた支柱が音をたてて三人を潰す可能性もあった。
三人は、89式小銃に新しいマガジンを押し込み、瓦礫をかき分けながら、慎重に門司港レトロに出た。
鼻が痛い……
くしゃみしすぎた……