感染   作:saijya

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第6部 調査

 大量のフラッシュが焚かれる中、戸部は堂々と壇上に立った。黒のスーツは変わらず、現在の九州地方における被害情況について、淡々と事務的な口調で述べていく。

墜落した飛行機に乗っていた搭乗者、100万都市を有する北九州市がある福岡県の現状、 そして、感染者の狂暴性、九州地方の隔離の成功、被害者数、それらを踏まえながらの会見は、約一時間に及んだ。

 続いての質疑応答にも、戸部は淀みなく自身の見解を答える。

 

「犯行声明は届いていないが、これは明らかなテロリストによる行為と我々は認識しております。アメリカと友好のある日本に対して、過激派テロリストが動いたのだと考えています。あくまで、推測の域を出ないのが非常に悔しく、二次被害の可能性もあり、なかなか救助活動に移れないこと、また、国民の皆様に、一刻も早く情報をお教えできない、私の不甲斐なさに憤りを覚えております。大変、申し訳ありません」

 

 戸部は、カメラの前で頭を垂れた。一斉に焚かれるフラッシュの奥で、戸部は、にやり、と嗤い嘲笑していた。そんな時、一人の男が手を上げた。ヨレヨレのTシャツに、無精髭、くたびれたネクタイ、記者会見という場には、やや不釣り合いの男は、名前を田辺という。

 

「質問願います」

 

 戸部の隣にいた女性は、田辺の姿に眉をしかめ、無視を決め込もうとしたが、頭を上げた戸部が首を横に振った。女性が、どうぞ、と許可を出してから、立ち上がり、田辺は一礼する。

 

「僕の個人的な質問ですが、今回の事件に対する総理の手際......例えば、関門橋の破壊、あらゆる機関の停止、九州地方への手配が早かったように思えるのですが、これだけ迅速な行動をとれたのは、何故でしょうか?」

 

 戸部は、さきほどまでと同じように、濁さずに返した。

 

「全てどんな事態が起きても、対処できるよう備えていたからです。及び、自衛隊の方々の努力あってこそでしょう。私個人は、何をした訳ではありません」

 

 どこまでも謙虚な姿勢に、記者達から感銘の拍手が起きた。田辺も、両手を打ち付けている。だが、座ることはなく、続けて訊いた。

 

「では、次の質問ですが、今回の事件に厚労省の方は、どう動かれているのでしょうか?聞く所によると、墜落した旅客機には、管理されていた薬品が積まれており、それが漏洩した可能性がある、とありましたが?」

 

「と、言いますと?」

 

 田辺は、右手に持ったペンで困ったように頭を掻いた。言いにくそうに尋ねる。

 

「その薬品が、ただの航空機墜落事件を悪化させる引き金になった......という可能性があるのではないでしょうか?」

 

 田辺の質問は、そんなB級映画のような事態がある訳がない、と会場中の失笑を買ったが、田辺は真剣だった。戸部も呆れたとばかりに、額に指を当てる。

 

「なかなか想像力が豊かな質問ですが、現在、調査中とだけお答えします。それでよろしいですか?」

 

「待って下さい。まだ、厚労省の動きを聞いていません」

 

「......そちらも現在、調査中です」

 

「はい、分かりました。以上です」

 

田辺は、椅子に座り、聞いた内容をメモに書き残した。他の記者は、どうでも良い質問だと思ったのか、誰もペンを走らせる様子はない。




第6部はっじまっるよーー
あと、ちょっと助けてほしいことがあります。
詳細を活動報告に載せておきますので、暇があれば覗いてみてください

あと、サザエさんのアナゴさんが亡くなってしまうってマジですか?

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