吹き飛ばされる防衛線と異常者、衝撃に耐えきれず、砕かれた門の一部が警察署のガラスを破り、その先にいた男性の胸を貫いた。
排気音が遠ざかっていく。祐介達にとって、最悪の事態が訪れた。最初に気付いたのは、加藤だ。
手榴弾の爆発から身をまもる為に伏せていた加藤に、長い影が重なる。嫌な汗が全身から流れ出した。右手に持っていた拳銃を横になったまま構えたが、もう手遅れだ。数人の異常者の下敷きになる形で、覆われた。
「ぎゃあああああああ!」
加藤の絶叫は、胸を抉られるような痛苦の叫びだった。
止めてくれ、助けてくれと乞うが、異常者達の獸じみた食事は終わらない。加藤は、力任せに切断された右腕を涙で霞んだ瞳で垣間見た。やがて、強引に腹へ捻り込まれた両手が脇腹に向かって広がっていく。開ききる前に、 四本の腕が晒された臓器に伸び、一人は直接、顔面を埋ずめた。
加藤の金切り声が大きくなり、やがて萎んでいく。
「いやああああああ!おとうさあああん!」
「阿里沙!行くな!」
「離して!離してよ!」
祐介は阿里沙にしがみついた。
「祐介!阿里沙ちゃんを二階へ連れていくぞ!」
銃声が響き始める。だが、いくら銃を扱えようとも、人に当てる練習はしていない。このままでは、いつか押しきられてしまうことは明らかだった。
祐介は、頷くと阿里沙を父親に任せ、彰一の手を握った。
「お前も来い!早く!」
彰一は、厭忌に満ちた形相で舌打ちを一つ挟んだ。辺り一面に反響する悲鳴は、増えていく一方だ。父親は、床に落ちていたパイプを一つ拾い、近寄ってきた異常者の頭部をバットを振るように殴りつけた。
瞬く間に地獄と化した避難場所、四人は、階段を駆け上がる。途中、背後にいた女性が、異常者の波に呑まれてしまったが、振り返ることも出来なかった。二階に到着すると、父親が階段を上がってきていた異常者を蹴り落とし、祐介に阿里沙を預けて言う。
「先にいけ!武道場の場所は分かるだろ!」
「親父は!?」
「あとから行く!心配するな!」
祐介は、逡巡したが、とにかく今は阿里沙を安全な場所に運ぶ方を優先した。
「行くなら早くしろ。糞共が上がってきたらキリがないぞ」
彰一が手にしたナイフを一人に投げ、先頭にいた異常者は後続を巻き込みながら、倒れていく。祐介は、武道場へ走りだした。二階廊下の中央にノブがない木製の扉がある。そこが武道場だ。
真鍮性の取ってを掴み、二枚扉を広げると、そこにいた加奈子の顔色がさっと変わる。
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