祐介の手にM360を握らせた。微妙な熱に、ずしりとした重量を自覚する。それは、決して銃本来の重みではない。
トリガーを引けば、人が死ぬ。高校生の祐介には、到底抱えきれるものではなかったが、父親は拳銃を指折りでもするように、しっかりと祐介の掌に収めさせた。
そして、祐介の手首を持ち、自らの額に当てた。
「さあ、引くんだ......男として死ねなかった俺を......せめて人間として死なせてくれ......」
「やめてくれよ......やめてくれ、親父......」
「祐介、頼む......お前の手で俺を母さんの所へ送ってくれ......連中のようになる前に......」
父親が祐介の手首を離し、両腕を広げた。
そうだ。父親があんな異常者と同じようになるのなら、母親を食い殺した奴等の仲間になるくらいなら、俺がこの手で......
そこまで考え、ぐっ、と指に力を込めたが、祐介は見てしまった。
父親に託すように握らされたM360を。
その弾丸が撃ち出される暗く深い穴に詰まっている見えない何かの重みで、腕が下がっていく。
「祐介......」
「無理だよ......俺には、無理だ......」
「祐介!!」
「無理だ!」
銃を父親に押し返した時、二階の武道場に避難していた阿里沙が駆け降りてくる。ただならぬ雰囲気を醸しながら、肩で息をしつつ大声で叫んだ。
「大変です!白い車が追われています!」
響いた大声は、全員の視線を集めた。阿里沙が、異変に気付き悲鳴をあげる前に父親が大音声をあげる。
「どういう意味だ?今はどこにいる?」
「二階の窓から見てたら、市立図書館前を車が走ってて......」
阿里沙の言葉は最後まで続かなかった。門前にいた異常者達は、一斉にその車へと向かっていったからだ。
巧みに車を操る白いプリウスの運転手は、門前にいた異常者の群れに銃撃を放ち、助手席側の窓を開く。
真っ白な男だった。
祐介は、玄関のガラス越しに目を見張る。僅かな時間、ほんの十秒にも満たない須臾ともいえる時間、車が門の前を抜けるほんの一時、祐介は男と見合った。
勘違いかもしれないが、その一瞬間に、男は白一色な姿からは似つかない黒い塊を放った。野球で動体視力を鍛えていた祐介には、それがなんなのか良く分かった。その塊は、重く鈍い質量をもって、異常者を阻んでいた門の前に落ちる。
「みんな!伏せろぉ!」
他の者には、凄まじい速度で、車は警察署を素通りしたように感じ、祐介の忠告に理解が追い付かず、呆然と立ち尽くしたままだった人もいた。そして、無情にも白い人間が投げた手榴弾がけたたましい爆音を発した。
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