浩太と真一は、ボディバックを二人で持ち機内へ入った。完全に潰れたコクピットへ繋がる扉は熱でひしゃげている。消防士の活躍もあり、焦げた匂いはするものの鎮火は出来ているようだ。
しかし、マスク越しでも伝わる匂い、もしもこれがなかった場合のことなど想像したくもない。
そして、浩太は座席へと目を向ける。
「……うっ!」
胃の奥から、出掛ける前に飲んだ牛乳が込み上げてきた。身体が吐けるならなんでも良いと訴えてくるようだった。
浩太の眼界に映っているのは、両腕が上がったまま、空を掴むように拳を握ったまま黒焦げになった男性か女性かも判別出来ない死体だ。不時着時に絶命したのなら、両腕は下がっているだろう。つまりは、生きたまま、誰かに助けを求めるように焼かれてしまったのだ。
そんな死体も少なからず点在している。真一は、ついに堪えきれなくなったのか、マスクの中に嘔吐した。
「大丈夫か?」
「ああ……ちくしょう……防護服の中がゲロでびしょ濡れだぜ……」
「無理もないな。さて、取りかかろう、いつまでもこのままってのは忍びない」
浩太は、先程目についた焼死体に手を合わせ、伸ばされた腕を掴み、引き上げようとしたが、肘から千切れてしまい、遂に堪えきれなくなった。二人の後続も機内の景色に絶句してしまっている。
嘔吐する者が絶えない中、遺体の回収作業に終了の令が出たのは、二時間後だった。
浩太はこの仕事について5年目だが、今まで経験したどんな訓練よりも辛い。疲労困憊とは正にこの事なのだろう。そんなことを思いながら、機内から出ようとした時、不意に真一が浩太の肩を荒々しく叩いた。
「……なんだよ?一刻も早くここから出たいんだけど……」
「なあ、薬品ってあれかな?」
すっかり頭から抜けていた。そういえばそんな話しもあった気がする。
真一が指差したのは床に空いた穴だ。そこから見えたのは、割れた銀色のジェラルミンケースとその中身だった。
茶色の毒々しい液体が、粉砕されたガラスのような欠片を浮かべている。間違いない、あれが件の薬品だ。
最悪な事に、試験管のような物に入れられ、衝撃で洩れてしまっていた。浩太は、真一を引っ張りつつ急いで機内から飛び出す。下澤がいる通信車まで走り、浩太は一気にがなりたてた。
「下澤さん!発見しました!薬品です!」
下澤は血相を変えた。すぐに通信機へと手を伸ばし、何者かと二言、三言交わすとドアを開き浩太に伝えた。
「専門のチームを派遣するそうだ。場所だけ教えてお前達は撤退してくれ。そろそろ後続の部隊が到着する頃だ」
「下澤さんは?」
「俺にはまだやる事がるんでな。で、場所はどこだ?」
真一が敬礼を挟んで言った。
「機体最奥の亀裂の隙間で発見しました」
「分かった。ご苦労」
下澤の労いに揃って敬礼を返した二人は、墜落現場から離れ、基地へ戻った。