「いえ、分かりますよ。震災や災害が起きた時、集まる場所といえば?」
再び東は考え込んだ。そして、はっ、と顔をあげ、鄙俗な哄笑をあげた。
「ひゃははは!何てこと考えてやがんだよ!最高に頭がぶっ飛んでやがんなぁ!俺なんかより、よっぽどイカれてやがんぜぇ!」
東の発言に、安部は不服そうに返す。
「生粋の人殺しに言われたくはありませんね。それに、私は救済をするのですから、人殺しという訳ではありません」
東はひとしきり笑った後に、唇の左端を歪めた。
「安部さんよぉ、お礼に良い事を教えてやるよ。良いか?人殺しの思想ってのは、同じ人殺しでも理解できないんだぜ?」
今度は安部が首を傾げる番になった。どうにも矛盾している気がしてならなかったからだ。
「人殺しは、人殺しを理解できるから人を殺せるのでは?」
「ちげえよ。なら、世の中にいたサイコパスや大量殺人犯どもも同じか?奴等は同じ思想や思考で行動していたか?」
分からないと口にした安部に構わずに東は続ける。
「一人殺せば犯罪者だが、百万人なら英雄になれる。ベイルビー・ポーテューズだったか?この大量殺人が肝だ。結局のところ殺人は殺人なんだよ。俺はそれがいつかってことが重要なんだと思ってる」
東は胸ポケットから煙草を取り出した。火を点けると、運転席側のドアガラスを僅かに落とした。
「さっきの言葉は戦争を痛烈に批判した神父の弁だ。だがよ、戦争においては殺人が正当化されてたのも事実だろ?それを今に当てはめてみろよ。正に、その状況にあると思わねえか?」
サイドミラーで後ろを確認した東は車を止め、ドアガラスを開いた。尻に敷いていた黒塗りの拳銃を取り出しす。P220単発銃だ。銃口を空に向けて一発撃ち、使徒の注目を集めると、煙草を大きく吸ってドアガラスを閉めた。まるで、慙愧の念に苛まれているような使徒の双眸が窓越しに光っている。こびりつく血を見ながら安部が口を開く。
「大量殺人が許される。そういう意味ですか?」
「ぶっぶーー、不正解。安部さんは大量殺人を行った奴がヤバイとか思ってんだろ?」
嘲笑った東は、アクセルを再び踏んだ。
「違うんだなぁ......例えば、エド・ゲインって知ってるか?半端じゃねえイカれ野郎だが、実は2人、他の殺人鬼にしては少ない人数しか殺してないんだよ。だが、有名なホラー映画の題材になるほど世間に衝撃を与えた。何したと思う?」
安部は、そんな話しを生き生きと語る東に対して悪寒が走り、何も答えられなくなっていた。使徒の呻きだけが聞こえる空間で、東の低い声が響いた。
「殺人に入る前から墓から死体を掘り起こして身体を切り刻んだ挙げ句、人間の皮膚や骨で家具を作ってやがったんだよ!そんなイカれ野郎の思想なんか理解したくねえっての!ひゃはははは!」
ちょっとあれなシーンなんで、少し飛ばして書きます