よろけた使徒と距離をとり、車を停める。集まり始めたら、再び距離をとる。こんなことを八幡東区に入ってから続けていた。もう、ずいぶんな人数を集めきっている。国道三号線に入った直後、助手席の男が低く呟いた。
「東さん......我々の目的はなんですか?」
東は、迷うこともなく即答する。
「使徒を増やして、世界に罰を与えるだろ、安部さん」
やや疲れたように、東が一息ついた。
「だったらよぉ、ちゃっちゃと俺に殺らせろよ。なんのために武器を調達したと思ってんだ?」
「では、その武器を使用するには、何が必要ですか?」
まるで子供にナゾナゾを出し、答えを待つ大人みたいな口調だな、と内心で苦笑する。
「弾丸だろ?安心しろよ。いざとなったら、ペン一本でも殺ってやるからよ」
安部は、その言葉を首を振って否定した。
「正解ですが、後半は駄目ですね。武器というのはあくまで手段の一つです」
東が不愉快そうに眉を寄せた。どうもこの安部という男は、考えが読みにくい。その上、能面でも被っているかのように表情を動かすこともあまりない。いや、面の方がまだ切り替えが利く分、まだマシだ。
苛立った東が、乱暴にクラクションを鳴らす。音に寄せられた使徒が集まってきた。
「いまいち、アンタの考えが読めねえんだよなぁ......それに、俺が聞きたいのは、そんなことじゃねえよ」
「分かっていますよ。彼らを集めて何をするのかを聞きたいのでしょう」
「分かってんなら教えろや!こっちはあの自衛官二人をアンタにお預けされてんだ!お楽しみを奪われちまってストレスたまってんだよ!」
安部は、喚き声を涼しい顔で聞き流したのか、ドアガラスの外を眺めている。車は桃園の交差点に差し掛かっていた。右手にある巨大電光盤が焼け焦げた臭いを発している。
眼鏡の奥で安部の目付きが細くなった。
「東さん、殺人を楽しんではいけません。我々は神の使いなのですから」
「あ?じゃあ、どうやって手っ取り早く増やすんだよ!」
「焦らずに考えて下さい。良いですか?」
得心がいかないが、東は渋々といった感じで頷いた。
「まず、私はこう思考します。あなたの言うように要領よく使徒を誕生させるにはどうするか。あなたなら、どうしますか?」
安部の質問は、要約すれば、どう大量に殺人を行うか、という意味だ。まず、東が思い浮かべたのは毒ガスの使用、次に銃器の使用だった。だが、毒は準備に時間がかかる上に、屋外なら意味はない。条件を満たすのは銃器だが、先程、安部は銃器は使わないと言っていた。
東は、しばらく沈黙していたが、やがて左手を挙げた。降参という意味だ。
「単純ですよ。人が多い場所に彼らをぶつければ良い、それだけです」
「......どこにいるか分かんねえから苦労してんだろうが」