彰一は、鼻で一笑した。
「じゃあ、なんだ?馴れ馴れしくしてくるお前と、仲良しこよしで過ごしましょうってか?」
「ああ、そうだ。助け合わなきゃどうなるかわからない。折角此処まで生き延びたんだろ」
「......別に、必死こいて逃げた訳じゃねえよ。俺は、もう誰かを信じない」
鏡のように冷たく、熱のない口調だった。彰一は、祐介と目を合わせようとしない。なにかあったのだろうか、そんな感触を得れる対応だ。ひとまず、彰一は置いておき、祐介は二人のもとへ戻った。
「阿里沙、あいつ何かあったのか?」
「さあ?分かんない。だってもとからあんな感じじゃない?」
眉をしかめる祐介を尻目に、彰一は窓に視線を預けていた。警戒心の表れだろうか、少し上半身を後ろに反らしている。
「祐介君、すまないが、少し手伝ってくれ」
加藤が手を振っていた。署内一階の中央通りの中心部に設置された長いソファーには、すでに数種類の銃器が用意されている。物々しい光景に、祐介は心苦しく思い、自然と胸から息を吐き出して歩き始めた。
※※※ ※※※
皿倉山の麓に近い八幡東区の八幡駅前通りでは、玉突き事故が起きていた。六台分の衝突は凄まじく、中心に寄るほど潰されている。真ん中の車は、運転席と助手席だけが、かろうじて判別がつく、そんな状態だ。その先頭の車内で影が蠢いた。それを皮切りに、次々とそれぞれの車内で何かが身動ぎを始めだす。ドアを破り現れた十数人に生気はなかった。濁りきった乳白色、その眼球は、あの世とこの世の境目に落とされた怨みを訴えるかのように虚空を仰いでいた。廓寥とした世界に取り残されているのは、生きている人間ではなく、死んで甦ってしまった、死人達なのかもしれない。
八幡東区サワラビモール前の通りに、大きな十字路がある。そこに春の町方面からきた一台の車が中央で停車した。小倉を抜けてきたからだろうか、真っ白なプリウスには、無数に赤い手形が付けられている。
車内の二人組みも、車体と同じく真っ白な格好をしている。運転席に座る小柄な男が助手席の男に訊いた。
「なあ、こんなことしてなんになるよ?」
助手席に座っている短髪で長身の男は、あまり関心がなさそうに眼鏡の位置を中指の腹でなおし、バックミラーを一瞥した。彼らが使徒と呼ぶ集団が写る。統率がとれている筈もなく、列は疎らだが、確実に二人を追ってきている。
八幡駅前にいた集団が、運転席のドアガラスを叩き、運転席の男は面倒そうに顔を向けてアクセルを柔らかく踏んだ。
いまさらですが、UA数6000越えです!ありがとうございます!