「とにかく今は中へ入って下さい。話はそれからで......」
警察署の中は、ひっきりなしに人が動き回っていた。命からがら避難してきたのか、取り調べ室前に急遽作られたベッドは、机を並べただけという質素なものだ。
そこで、噛まれた箇所の治療を受けている者もいる。さながら野戦病棟のようだった。傷の酷い者ほど、外を徘徊する異常者と同じような呻吟をあげている。
祐介は、出来るだけ見ずに父親に言った。
「親父、傷は?」
「上野さん、怪我を?」
加藤が慌てて振り返るが、父親は首を振った。
「俺よりも重傷者はたくさんいるだろ?そっちを先に治療してやってくれ」
「しかし......」
「......それより、武器はあるのか?」
「はい、先日、近くにある暴力団の事務所から回収した銃器があります」
「よし、それを持ってこよう。武器はあるだけ良い」
警察署内にいた警察官達は、父親の姿を見ると、次々に集まってくる。こんな状況ながら、祐介は父親の背中を大きく感じた。これだけ信頼されているのだ。先ほどの一件は狼狽えていただけということにして忘れよう。
その時、祐介は背中に声を受けた。
「......祐介君?」
祐介にとって馴染み深い声、加藤の一人娘、加藤阿里沙の声だった。幼馴染みのように付き合いの長い友人の声音を聞き間違えるはずはない。
祐介は、反射的に阿里沙の両肩を掴んでいた。
「阿里沙!良かった......無事だったんだな!」
「うん、お父さんがすぐに来てくれて......でも、一緒に逃げてた人は、ほとんどあいつらに......祐介君こそ、よく無事だったね」
「ああ、どうにかな......」
ふと、阿里沙の足に四歳くらいだろうか。ひどく怯えている女の子がしがみついていた。祐介の奇異な視線に気付いた阿里沙が、一呼吸置いて、耳打ちする。
「この娘、一緒に逃げてた時にご両親が......」
そこから先は聞く必要はなかった。外の状態を知っているなら誰にでも分かる。祐介は、母親を思い出したが、かぶりを振って女の子と目線を合わせ、微笑んだ。
「初めまして、お兄ちゃんは上野祐介っていうんだ。よろしくね」
女の子は、阿里沙の足に隠れてしまった。怪訝に思い、阿里沙を見上げると、困り顔で苦笑する。
「実は、ご両親が目の前で......それから声が出なくなったみたいで......」
祐介は、前に部活の後輩がひどいイジメを受けていた時を思い出した。不登校になる前に、確か後輩も喋れなくなった時がある。過度なストレスに晒され、普段なら出来ることができなくなる病気があったはずだ。
身体表現性障害の心因性失声、そんな病名だったろうか。祐介は、外に目を向けて、女の子が更に気の毒に思えた。
時間が解決してくれるはずの病気も、あの光景では見込みは薄いだろう。
さて、あいつらを出せるのはいつになるかな?w
いやあ、楽しみだ!もうね、入れるようになってから二作品書くのが楽しくて楽しくて!w
やっぱり、頭にあるストーリーや手帳の内容を文字にするっていいね!!w