浩太は、様々な不安を吹き飛ばすように有らん限りの力で咆哮した。それは、達也すらも耳にしたことがない魂すら吐き出してしまいそうなほどの気合いの叫びだ。
それでもなお、対面する東は平然としている。
突きだされた浩太の右拳を軽く首を傾けて避け、きひっ、と歪に笑う。
「吼えたところで、何が変わるってんだよ!ああ!?」
お返しとばかりに繰り出された東の攻撃は、突然の銃撃により遮られた。横腹に無数の穴を穿られたものの、みるみる内に傷が収縮していき、完全に塞がる。薄い硝煙をたゆらせる銃を握ったまま、平山は舌を打ち悪態をつく。
「化物が!」
マガジンを落とし、腰から弾倉を抜く間、東は冷静に順番を組み立てていく。まず、厄介な者は平山だろう。次に、見た目以上にダメージの少ない自衛官である浩太、この二人の排除することを優先すべきだろう。
さしあたって、個人的な感情は後まわしにし、東は平山に狙いをつける。浩太と肉薄した中で正確に東のみを撃ち抜いた射撃能力は間違いなく後々に響いてくる。平山が新たなマガジンを叩き込むと同時に、東は腰を落として走り出した。
「平山さん!こちらに来ています!」
「分かってる!」
田辺の声に、半ば叫びつつ平山は引金を引いた。真っ直ぐに向かってくる東は平山にとって格好の的と変わらない。だが、いくら弾丸が肉体を貫こうと、まるで意に介さない東は、奇声をあげ右手を掲げる。
鷹揚としている場面ではない。けれど、平山の卓越した射撃は、右手が挙げられた瞬間、握り拳のみに弾丸を撃ち込んだ。苦悶の表情を一瞬だけ浮かべた東に、平山は心の中で小さくガッツポーズを作った。
「それがどうしたよ……」
抑揚のない声がし、平山の胸部を太い焼鏝を当てられたような熱く重い衝撃が襲った。後方に弾かれた平山が見たのは、失った右手をそのままに、腕を前に出した東の姿だ。まさか、と思い自身の胸の位置に視線を下げれば、血がべったりと付着している。
「今更、こんなもんで怯む訳ねえだろうが!ひゃははははは!」
加えて平山が瞠目したのは、その再生スピードだ。ほんの数秒足らずで筋繊維が形を成してきており、元通りになるまで数分も掛からないだろう。明らかに、復元までの時間が短縮されている。
「くっ……そ……がぁ!」
歯を締めた平山が立ち上がる。
東の常軌を逸した怪腕の一撃を受けて生きている、それだけは僥倖だった。拳で打たれていれば、恐らく胸骨などを砕かれて臓器に損傷を与えられていただろう。
平山が次の行動に移る直前に、東は間合いを一息に詰めた。