「下らねえなぁ……俺がこれからやろうとしてる事に比べりゃあ、個人の感情なんざ掃いて捨てるみてえなもんだ。結局のところ、テメエらは周囲を守るだけで世界へ目を向けてねえんだよ!」
「……それの何が悪いんだよ」
真一の首を置いた浩太が、不意に言った。怪訝な目付きの東を見据えながら立ち上がる。
「俺達は仲間を守ることが精一杯なんだよ。誰一人として死なせたくないと必死になって、辛くても歯を食い縛って、そうやって生きてきたんだ。それをテメエは下らねえと笑うかよ……」
東は、淀むこともなく、それどころか一層にも増して表情を明るくする。純粋な子供を思わせる無邪気な笑顔で、両腕を広げて昂然と言った。
「ああ、下らねえな!暗い視野と狭い思考に未来を生み出すことはできねえ!元来、人間って奴は常に先駆者へと集ってきたんだよ!子供が大人に従い、大人は国に従うようになぁ!」
鬼の形相を浮かべているのは裕介だ。森が強風に煽られたかのような、ざわついた胸中を吐き出す。
「違う!命は……人の命はそんなことの為にあるんじゃない!未来はいつだって人が作り出してきた!誰かに従うだけの命なんてあって良い筈がないんだ!」
裕介の声を受けた達也が継ぐ。
「少なくとも、テメエのような歪んだ奴に従いたくねえのは確かだな……自分が人間の進化を体現してる、そんな口振りだ。勘違いも甚だしいぞ?」
「勘違い?そうじゃねえだろ?俺は事実を述べてるだけだ。現実から目を背けんのはやめろ」
やや落ち着いた声音に戻ってはいるものの、視界に捉えた獲物の隙を鋭く狙う目付きは全く変わらない。前髪の奥で怪しく光る瞳の動きが次の発言者となるであろう田辺で止まる。
「よぉ、偽善者……お前なら俺の言っている意味は分かるよなぁ?」
田辺は首を振った。
「僕はお前の理解者にはなれない。なりたくもない……けど、お前を助けたいって気持ちは本物だった。それは野田さんも同じだ」
「そいつは、心の折合いをつけるための妥協じゃねえか。俺のことが憎いなら、憎み続けてりゃあ良かったんだよ。それなら、ちったあ骨がある奴だと認めてやったのによぉ……随分と丸くなったまったもんだなぁ……昔のお前のほうが、まだ張り合いがあったのになぁ、偽善者」
心底、残念だとばかりに東は嘆息を洩らした。
しかし、田辺はそれを涼しい顔で流すと続けて口を開いた。
「東、僕はあの頃に比べて強くなったんだ。だからこそ、ここにいることができる」