扉の先は、広い空間だった。
東が鎖で捕らえていた死者達は頭を撃ち抜かれて倒されている。その中心には、九州地方最後の生残りグループ四人と、東京から遥々と救出に乗り出した四人組みがいた。
屋上は、柵がぐるりと四方を囲んでいたのだが、東の真正面に位置する個所に黒く煤けた跡があり、荒々しく切り抜かれたかのように大きく損傷している。そこから視線を真横に滑らせれば、東京組みが乗ってきたヘリコプターがプロペラを停止させた状態で鎮座していた。運転手の男は降りてくる気配はなく、座席部にはもう一人分の影が確認できた。
東が一通りの状況確認を終えたとき、真っ先に口を切ったのは浩太だった。
「東……お前がここにいるってことは、そういうことなんだな……」
発言の意味が読み取れず、少しだけ間を空けた東は、右手に持っていたものを見て合点がいったとばかりに頷くと、右腕を軽く振り上げて投げた。
受け止めた浩太は、一瞬だけ瞠目するが、すぐに深呼吸をして、そうかと呟いた。
東としては、浩太の反応はまったくもって意外なものだった。僅かな動揺はあったが期待を大きく下回る。落胆した様子で東が言った。
「なんだぁ?もうちょい狼狽えてやれよ。それとも、首だけ持ってきてやった俺に感謝でもしてんのか?」
東が投げたのは、額に穴を開け、目を閉じて唇を結んだように閉めた真一の首だった。
けれど、浩太だけでなく達也や裕介まで、どこか納得した表情をしている。女性は狼狽してはいるようだが、それも予想以下だ。どうにも面白くないとでも言いたげに東は鼻を鳴らす。
「冷てえもんだなぁ?ここまで苦楽を共にしてきた大切なお仲間だろうによぉ」
東の挑発に対して、田辺は穏やかな口調で返す。
「これまで苦楽を共にしてきたからこそ、彼らにしか分かり合えるがあるんだ。東、お前には決して理解できないことだろうけどね」
東にとっては、どうでも良いことなのだろう。下らない洒落でも聞いたように、口の端をあげ眉間を狭めた。
唯一の理解者との一体化により、欠けていた人間性、つまりは、拠り所を得た東にとって、見えない絆の繋がりなど滑稽にしか映らない。人は一つになることで、子供を作り進化を繰り返してきた。その究極を体現し、求め続けた「色」を獲得した東にとって人間性というテーマの答えは既に出ている。多面的な妄想、多重な思想、それら全てを内包し、実行できる種族、それこそが人間だ。
思想に見えない絆など必要はない。理解者が一人いれば、それで良い。肌で存在を感じることこそが最大の重要事項だ。