感染   作:saijya

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第3話

 浩太と真一はB班、達也だけがA班に割り振られた。真一は見張りだけの任務なんて羨ましいとぼやきながら、支給された防護服を手に取った。迷彩柄に口元が突出したマスク、まるで虫になったみたいだな、と笑う達也に悪態をつきながら二人は軍服の上から着用する。

 A班は近場ということもあり、一足先に出発した。二人一組でトラックに乗り込んだB班が現場に到着したのはそれから約30分後だ。縦に5台並んだ2台目に二人は乗り込んでいた。

 現場に到着すると、ケーブルカーが設置された建物を境に自衛官や警察が用意した立入り禁止とかかれたテープが大規模に張られており、マスコミをこれ以上は入らせないように防いでいた。

 つづら折りの急な山道を登っていく途中、助手席のドアガラスを開けた真一が山頂付近を指差した。

 

「見ろよ、送信所全滅だ。まだ黒煙が昇ってやがるぜ」

 

「……だな」

 

 浩太は一気に気が重くなった。朝、面倒だと思っていたのが嘘のようだ。現場に近づけば近づく程、空気が重くなっていく気がする。いっそ帰ってしまいたい。

 だが、自衛官の矜持からそれだけは出来ない。そう自分を無理矢理に奮い立たせる。

 

「どうした?気分でも悪いのか?」

 

「真一、今だけはお前の気楽な性格が羨ましいよ」

 

「そうか?まあ、それぐらいしか取柄がないって隊長にも言われたしな」

 

 言いながら、真一は煙草を取り出して火を点けようとしたが、マスクが邪魔をしていた。どうにか出来ないかと口元に空いた穴に煙草を通そうとしているが、穴の大きさが足りないのは見たら分かる。

 その内に、真一が持っていた煙草は真ん中から折れてしまった。それを横目で盗み見ていた浩太が言った。

 

「お前、馬鹿だろ?」

 

「いけると思ったんだけどなあ」

 

 折れた煙草を窓から放り投げた。

 

※※※ ※※※

 

 現場に到着した二人が目撃したのは、まるで地獄絵図そのものだった。墜落した機体は、さきほどの煙草のように真ん中から折れ、衝撃の強さから右翼は完全に無くなっていた。

 それほどの規模の事故だ。勿論、乗客も無事ではない。機体の割れ目から黒焦げの死体が見え隠れしおり、外に投げ出されなかった者だけで、その数は目算でも200名以上はいるだろう。

 それだけでも凄惨な光景に違いないのだが、最大の問題は投げ出された方だった。どこを見ても死体が転がっており、下半身が圧し潰された者や、着陸時に吹き飛ばされたのか、大木の太い枝に吊るされるようにぶら下っている者、全身を焼かれて顔の判別が出来ない者、四肢が欠損しているのは、もはや当然、そんな光景が広がっていた。

 普段は陽気な真一でさえ、こみ上げてくる物を必死に堪えているようだ。B班の指揮を取る下澤が声を張った。

 

「行動を始める!尚、ボディバックの数が足りていないので、今この場にある分だけでも遺体を回収してくれ!不審物は発見次第、報告してくれ!」

 

 簡単に言ってくれるぜくそったれ、と浩太はマスクの奥で悪罵を吐いた。


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