バランスを崩し、田辺が膝をつくと同時に野田が七人に合流する。激しく呼吸と嗚咽を繰り返す田辺に比べれば、まだ余裕がありそうな野田へ浩太が口火を切る。
「残りの二人は!どうしたんだよ!」
詰問する浩太に、野田は要点のみをまとめて返す。
「一人は東に殺された。若い方は東の足止めをしつつ、こっちに向かっている」
「じゃあ、さっきの銃声は……」
破裂音が再度、浩太達の鼓膜を揺らす。つまりは、殿を務めているのだと納得したものの、あの化物を一人で足止めなど到底不可能だ。
浩太は考えるよりも早く、エスカレーターに足を出した。
「待って……ください……」
息も絶え絶えになりながら浩太の足を止めたのは田辺だった。
視線を落とした浩太は、田辺が咳き込んだ様子を目にして、なにか傷をつけられたのかと野田へ目をやる。
「……ただの運動不足だ。なにもされてはいない」
肺に溜めていた空気が溜息となる中、ようやく呼吸が整い始めた田辺は、肩をあげズボンを握り締め、浩太を仰いで言う。
「岡島さん今は……今は駄目です。今、行った所で、東を倒すことなどできない……!」
浩太は田辺の手を振り解き、声を荒げる。
「だからって、ここまで助けに来てくれた男を見殺しにするなんざ出来ないだろうが!」
「だからこそです……だからこそ、今、ここにいる僕達全員が助かる方法を探すべきです!奴をどうやって……!」
ぐっ、と剣を強めた田辺は、そこから先を呑み込むように俯いた。
何か口にしたくない一言なのだろうことは容易に分かる。田辺が吐きたくない一語、予想する中でも数種類あるが、現在の状況に一致するものはこの言葉だろう。浩太は敢えて言った。
「奴を殺す方法があるのか?」
ビクリと双肩を震わせた田辺は、ゆっくりと額を上げていき、自身を見下ろす浩太の澱みのないまっすぐな瞳を見た瞬間、代弁することにより田辺の心にかかる負担を減らしてくれているのだと察した。日常で実現しにくい言葉ほど、実行するとなれば莫大な覚悟を注がなければならない上に、費やした時間に反比例して揺らぎやすい。それだけに、浩太が引き継いでくれたお陰で、田辺は立ち直ることが出来た。言霊というものは、本当にあるのかもしれない、そんな感慨に耽る間もなく、達也が口を挟んだ。
「それで……どんな内容なんだ?」
ひとまず、田辺は全員を見回す。
重症が二人、三人は学生だろう。まともに動けそうな男は、浩太に野田、そして自身だけだ。
田辺は、息を吸いこんだ。
「正直に言います。この方法は成功する可能性が極めて低く、恐らく、犠牲も出てしまうでしょう」