「東、罪は変わらないが罰は変えられるんだ」
唾を吐き捨てた東が返す。
「テメエは典型的な日本人だなぁ?世界に対して視野が狭すぎだ。歴史を鑑みてみやがれ……同じことが言えんのかよ、ああ!?」
語尾を荒げた瞬間、東に向けられている銃口が近付くが、眉根を寄せるも口を閉ざさない。
「この世界は、虐殺と強奪で発達してきてんだよ!農耕民族だった時代、他はそうやって発達してきて、その思想は現在も深く根付いてやがんだ!その為に、俺が、この俺が世界を変えてやんだよ!救ってやんだよ!罪を受け入れろだぁ!?そりゃ、テメエらみてえな糞共が吐いて良い言葉じゃねえんだよお!」
東の憤懣が男達の身体を叩く。銃口を突き付けている松谷は、ぐっと唇に力を込めた。
好奇心は人間を殺す場合がある。それがただの興味本意であってもだ。道を外れた思想や行動は、悪にも正義にも容易に変わる。
松谷は、無意識に頬の筋肉を弛めて銃のトリガーを僅かに引いた。生かしてはおけない、生かしておけば災いを引き起こしかねないこの狂人は、今、この機会を逃せば仕留めきれない。頭蓋を揺らす警鐘を止めたのは、これまで一言も発っすることなくいた野田の声だった。
「東、お前が言っているのは世界に対する復讐なのか?それは、本当にお前の言葉なのか?」
語りかけられた東ですらも、目を丸くしている。その様子は、野田の存在にようやく気付いたことを如実に現しているようだった。記憶を巡らしているのか、東は質問に答えずに首を捻り、数秒して短く呟いてから言った。
「ああ、テメエは、あの時の政治屋か。意外だな、どうして臆病者の集まり、それもそのトップの一人がこんなとこにいやがんだぁ?あ、もしかして俺に復讐でもしにきやがったのかぁ?いやぁ、悪かったなぁ、あんときゃ、そこの偽善者に嗅ぎ回られてイラついてたもんでよぉ」
どこまでも挑発的な態度を崩さない東とは違い、野田は冷淡ともとれそうなほどに落ち着いた口調で言った。
「それがお前の本心ではないのなら、自分を偽るのは、もうやめておけ……それは例えお前であろうとも辛いだけだぞ」
「あ?なに露骨に無視してくれちゃってんの?これから、お前の女がどんな言葉を残したのか聞かせてやろうと思ってんのによぉ」
「お前の口から語られる偽物の良子などに興味はない」
「……へえ、政治屋にしては偽物だとか本物だとか、んなもん口にするんだなぁ」
背が低い東は、野田を覗き込むような姿勢になってしまう。それが挑発に拍車を掛けていることに田辺は気付いていた。野田が強く握った両手には血が滲んでいる。