「駄目だ……真一さん……そんなこと考えちゃ駄目だ……」
自然と溢れだした涙を拭わずに、裕介は嗚咽を交えながら続けた。
「死ぬことなんてないよ……きっと、なにか方法が……」
「裕介……なんか……勘違いしてるぜ?」
えっ、と目を丸くした裕介が顔をあげれば、青白い血色とは不釣り合いな笑顔を浮かべた真一がいた。ぽんっ、と軽い調子で裕介の頭に右手を乗せる。
「俺はさ……九州がこうなる前に……浩太と新崎から言われてんだぜ……?その気楽さが羨ましいってさ……そんな奴がお前に殺してくれなんざ、頼むと思うか?」
微塵の不安もなさそうな真一の微笑みに嘘はない。けれど、裕介は首を縦には振れなかった。母親に父親、彰一、これ以上、大切な人を失うことが恐ろしくもあり、真一に対して何も出来ない自分が情けなくもあったからこそ、裕介は俯いて唇を噛んだ。歯列から洩れるような細い声を出す。
「真一さん……俺、何も出来ないんだ……真一さんの頼みだって……果たせる自信が萎んでしまってる……情けない、情けないよ俺」
佐伯真一の強さを目の当たりにし、坂本彰一の強さを見届けた裕介にとって、辛い一言だった。だが、心の奥に閉じ込めていた本心からきた一言だ。九州地方から生き延びる為に、大切な人を守る為に身につけた装いは、怜悧な自分を演じること。新崎への詰問も裕介にとって処世術の一つだったのだろう。しかし、それは弱さを露悪的に晒すことが出来ないという弱点を生み出してしまっていた。それでも良い、そう言う者もいるだろう。ただし、 それは正解なのかと問われればそうではない、誰にも答えられない。
人は、生き方で変わっていく。真一の気楽さもまた、生き方であるのと同じようにだ。
「お前は……情けなくなんかないぜ……」
「けど……!」
「よく聞けよ?本当に……情けない奴ってのは、根子をもってねえ木みたいな奴だ……お前は、どんだけ苦しくても……人の為って本質は変えてない……どんなときも、自分より他人を心配する甘ちゃんとも見えるけどよ……普通は出来ないぜ?そんな男を情けないなんて誰にも言えない」
ニッ、と笑んだ真一の口角から、一筋の血が垂れている。それでも、裕介には瞼を塞ぎたくなるほどの眩しい笑顔だった。とても、死を目前にしているとは思えない。
直後、真一は噎せ始める。大量の吐血が迷彩柄のズボンに再び染み込んでいく。
「真一さん!」
身体をあげて真一の肩を掴んだ裕介は、ふと気が付いてしまった。