喉仏に鎌を当てられている気分だ。
始まった真一の牽制射撃は、どうにかM2重機関銃を防げてはいるが、弾丸が尽きるまでの猶予しかない。つまり、真一が持っているマガジン一つ分、慎重に弾丸を使う必要もあり、のし掛かるプレッシャーも相当だろう。
指切り連射で迎え撃つにも限界がある。浩太は、肺に残った空気を振り絞り、全神経を両足に集中させた。暴徒が関門橋に集中していたのは、幸か不幸か、トラックに近付くほど暴徒の数は減っていく。
カーキ色の荷台に手をついた浩太は、休む間もなく荷台へ飛び乗り、89式小銃を手にした。遅れて到着した達也に渡す。
「達也!真一の援護を頼む!あのクソアパッチに銃弾をありったけぶちこんでやれ!」
「端からそのつもりだ!」
安全装置を解除した89式小銃のフルオートのような射撃に、アパッチが高度をあげた。地上に降りず、安全地帯から獲物を追い詰める狩人のようなつもりでいたのだろう。思わぬ反撃にあい、慌てている様子が手に取るように分かり、真一は心の中で右手の中指を立てた。
「ざまあみろ!くそったれ!」
嘲罵を浴びせた真一だが、アパッチの腹に描かれた図を見た直後、瞠目する。浩太が真一の肩を叩くまで呆然と屹立していた。
「何を呆けてんだ!アパッチが態勢を整える前にトラックまで走れ!」
真一は、ぐっ、と奥歯を噛み締めた。この局面に、動揺を誘う発言をするべきではないと判断したからだ。
思考をすぐさま切り替えて訊いた。
「お前はどうすんだ?」
「まだ、一般人を助けきれてない!探してくる!」
叫喚が聞こえたのは、その時だった。声の方向は、アパッチの銃撃で血溜まりとなった場所の中心、30ミリ弾の直撃を免れ、片足を失った状態で、地面を這いずり回っていた暴徒達に囲まれていたのは、浩太が助けた女性だった。
蹲ったまま、逃げ遅れたのだろう。必死に両足を駆使して抵抗していたが、背後から忍び寄った暴徒に片足になった所を引き抜かれ、前のめりに倒れてしまい、一人が女性の二の腕に噛みついた。
苦痛に歪む表情と、泣き喚く声。それは、生きたまま身体を貪られる屈辱の叫びのようだった。彼女は助からない。ならば、浩太に出来ることは一つだけだ。
悔しかった。助けると言っておきながら、女性を見殺しにしてしまった。
悲しかった。今尚、響く絶叫を聞くことが、堪らなかった。
89式小銃の銃口を向け、浩太は雄たけびをあげ、絶叫した。
「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおお!」
数十発の5.56ミリ弾は暴徒を巻き込みながら、女性の眉間を貫いた。初めて、「生きた」人間を殺した。
楽にさせたいという思いと殺人を犯したという事実、なにより、助けられる筈だったであろう命を終らせてしまった。
浩太は人知れず、額から噴出した血で両手を染めた女性に誓った。かならず、こんな世界に変えた元凶を探し出し報いを受けさせる。浩太は涙を流さなかった。踵を返し、真一に言った。
「行こう。達也が待ってる」
カエルがうるせえええええええええええええええ!www
裏が田んぼだからだろうね。毎年、イライラするw