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田辺は、腕時計を一瞥した。
現在十一時二十二分、岡島浩太との約束の時間が迫る中、操縦士の男が声を張った。
「見えてきたぞ!関門橋だ!」
田辺が操縦席に目を向けると、本州へと続く関門橋の中央付近は、大きく崩れており、すっぱりと大きく裂けた口を広げているようにすら映り、その光景に絶句する。さながら、希望の梯段を壊されたヤコブのような気分で喉を鳴らし、田辺は視線を真っ直ぐに戻した。九州にくるのはこれで数回目だが、ハッキリとした地理を覚えていない。待ち合わせ場所になっている小倉のあるあるシティを探す為、田辺は両目を皿にして見回している。そんなとき、ふと、平山が言った。
「そういえば……田辺さん、そのあるあるシティってとこの場所、知ってるんですか?」
田辺は振り返らずに首を振った。
「いいえ、けれど、地図で確認はしています。位置としては小倉駅の裏にあたるようです」
門司港レトロを眼下に捉えて首を横に向ければ新幹線の路線が確認できる。博多から続く路線には、小倉駅が含まれているので、目印としては充分だろう。あとは、建物の看板等を早急に探しだせば良い。
残る問題は、着陸場所の確保だ。それは岡島浩太も気にしていたことだが、屋上に消化機材などがあった場合、着陸が難しくなる。電話での会話で理路整然と話していたからこそ、着陸に関することは慎重にならなけらばいけない重要事項だ。
忙しなく腕時計へ目を移しながら、パイロットと共に下関の街並みを俯瞰していると、やがて、長い直線道が見えてくる。目的地の小倉まであと少しといったとこで松谷の屈託そうな溜息が聞こえた。
「さっさと、こんなシケた場所からオサラバしたいもんだ。なあ、野田さん?」
嫌味な言いぐさに、平山が弾倉のチェックを行いつつ微笑する。
「まーーだ、ビビッてるんすか先輩?あんまりそんなこと言ってると、映画の脇役みたいに真っ先に死んじまいますよ?」
「んだと?コラ、平山もういっぺん言ってみろよ」
「何度も言わなければ分からないようなことじゃないでしょ?それでも分からないってなら、もう一度だけ言いましょうか?」
「平山よぉ……良い度胸してんな。どうせ、これから一暴れするんだ、お前で肩慣らしでもしてやろうか?」
「遠慮しときますよ。体力は無駄にしたくないですし」
「なんだ?ビビッちまったのか?」
意趣返しのような言葉に、平山のこめかみが僅かに動き、大袈裟に溜息を吐き出すと素早く銃を松谷へ向けた。深く暗い穴が松谷の目に止まる。
「いい加減うるせえってんだよ。腰が引けてんなら、足手まといになるし、ここでリタイアしとくか?先輩」
報告ありがとうございました
マウス買いなおそうかな……多分、マウスのせいです.....多分……