死人の弊害である思考力の衰えが東にとって最悪な展開へと発展した。
熊の豪腕が東の右肩を打ち抜く。胸骨にまで達した衝撃、それは膂力などという言葉の範疇では収まらないものだった。壁面に吹き飛ばされた東は、まず自身の胴体へ視線を落とす。達磨落としのように首と下半身以外がすっぱ抜かれてしまったかと思ったからだ。
次に左手を右肩に当てる。肩が筋肉ごと亀の頭のように内側に押し込まれている。
「良かった……あった……」
悄然とした呟きの後、大口を開けた熊が東の右肩にかじりついた。
「ギイヤアアアアアア!」
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喉が裂けるほどの悲鳴が木霊する中、浩太は膝をついていた真一を見る。熊と東は、達也と亜里沙、加奈子と浩太、真一と裕介、ちょうど六人が別れる位置にいる。この機会を逃す訳にはいかない。
田辺がこちらに到着するまでには、あるあるシティの屋上へ向かわなければならない。あと、どれほどの時間が残されているのだろうか。そして、なにより気掛かりなのは、真一が負った傷の具合だ。駆け寄った裕介に肩を抱かれて立ち上がろうとしても渋色を示している。
「真一さん……傷は……」
裕介が不安そうに訊くと、真一は深い溜息をして言った。
「最悪だぜ……さっきので悪化しちまったらしい……」
ズボンを捲りあげる勇気はないけどな、と付け加え腰からイングラムを抜き浩太に手渡す。
「俺にとっちゃ無用の長物だ。お前が持ってたほうが有意義だぜ」
浩太は何も言わずに受けとり、フロアの対面にいる三人へ目線を預ける。どうやら、達也と亜里沙もひとまずの態勢は整えたようだ。
東を貪る熊がこちらに注意を向けぬよう、浩太は指を二本たてて達也へサインを送る。次に人差指だけを残し腕を真上へ伸ばす。
二人は任せる、屋上で合流だ。
それを汲み取った達也が頷くまで待って三人はエスカレーターを登り始める。
裕介から、ここで待っていたほうが良いんじゃないか、との提案があったが、達也と亜里沙、加奈子はフロアを半周してエスカレーターに辿りつかなければならないので、一足先に男三人が上階でなんらかの障害があった場合、排除しておかなければならない。それが分かったのか、裕介は静かに喉を鳴らし、真一から譲り受けたAK74の存在を汗ばんだ掌で強く感じた。
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浩太達が行動に移ったことにより、達也も亜里沙と加奈子を立たせた。手持ちの武器はなく、二人を守るのは相当な負担がかかるだろうが迷っている時間はない。
亜里沙に抱えられた加奈子に目を落とし、怪我をしていないかなどの確認をさっと行い亜里沙に言う。
「怪我はねえか?」
……眠い……