眼前を鮮血が覆った。突き出た左手が撹拌するように捻れ伸びてくると、肘で止まり一気に引き抜かれた。弛緩と硬直を繰り返す肉体が達也に向かって倒れてくる。
訳もわからず、両腕で支えた達也は、小さく言った。
「あら……さき……?」
呼掛けに新崎は、全身が痙攣しながらも虚ろな瞳を投げ掛けた。胸を貫かれ、肺に深刻な傷を残されているのか、喋ろうとする度に吐血を繰り返す。涙を浮かべ、達也の袖を掴み、顔を浩太と真一、裕介、亜里沙、加奈子へと向け、唇を震わせる。声などはない。だが、六人は新崎が何を言っていたのか、すぐに分かった。
人としての最後、信じてくれてありがとう。
直後、東の剛腕が達也を襲う。態勢が悪く直撃とまではいかなかったが、達也を弾くには充分な威力がある。
達也から放れた新崎の死体を見下ろした東は、首から持ち上げ大きく振りかぶった。
「まさか……おい!やめろ!東!」
「まずは、一人目だなぁ?予定とは違うが、一番、厄介そうな奴を片付けられたのは、僥倖ってやつかあ?ひゃはははは!」
駆け出す浩太を一瞥し、東は新崎の肉体をエスカレーターへ放った。背の低い柵を越えた先は、通路を塞がれ立往生している死者の大群がいる。
浩太は怒りで震える声で叫んだ。
「ひぃぃぃがぁぁぁぁしぃぃぃいい!」
浩太の足の筋肉が肥大する。今すぐにでも飛び掛かり、東の喉元を裂いてしまいたかった。だが、その思考は予想外の音が響いたことにより寸断された。階下へと投げ出された新崎の身体が、床へと叩きつけられたのだ。そこに全員が違和感を抱く。通常てあれば、そんな音が鳴るはずがない。死者の波に呑まれてしまうからだ。
しかし、それならば、現状の説明がつかない。怪訝に眉を曲げた東が階下へと続くエスカレーターの柵を覗き頓狂の声を出す。
「どうなってんだ、これは……」
密集した大群がいたエスカレーターはもぬけの殻となっていた。それどころか、伸吟のひとつも聞こえてこない。水を打ったような静寂に、ようやく浩太達も気付き、首を捻る。生と死が入れ代わったあの日から、途切れることのなかった呻き声が切り落としたように無くなっていた。
戦闘に気を回しすぎたと、東は小さく舌打ちを挟む。これほどの変化に対応できなくなるなどあってはならない。それとも思っていたより、生残り達に手こずっていたのだろうか。とにもかくにも、異常への対処の為に、東が取るべき行動の順序を変えなければならないことは確かだ。
いやあ……本当すいませんでしたあああああああああああああああ!!
投稿時右クリック連打してました!!
教えていただきありがとうございました。