訳もわからず眉を寄せた裕介だが、通路を走る浩太と達也に手伝われながら歩く真一をみて顔から血の気が引いていく。何があったのかなんて聞かなくても分かる。ぐっ、と唇を噛んだ裕介は、三人に一息に近付く。
その間にも、遠慮なく接近する死者を確認しつつ、新崎は三階へのエスカレーターに足を掛け、中腹で振り返ると押し寄せる大群の先頭を蹴りつけた。エスカレーターから転がり落ちた男性の死者は起き上がる間もなく多数の後続に踏まれていく。このままでは間に合わない。そう、新崎が覚悟を決めたとき、三階から声が降った。
「新崎!伏せろ!」
耳を通るのはエスカレーターの手摺りに添って何かが滑り落ちる音だ。視認するよりも早く、新崎が伏せた直後、頭上を黒い影が通り抜けた。まるで滑車にでも送られるかのように、勢いよく滑り落ちていったものは本棚だ。死者を巻き込みつつ、レールの切れ間に達し、二階のフロアーに落下する。
「呆然とするな!早く上がってこい!」
死者が二階で蠢いている隙に、新崎は全速力で三階へ走り、到着するやエスカレーターの入口を塞ぐ為に裕介が用意していた物資を積み重ねる作業に加わった。
そして、最後の本棚が重ねられると同時に、死者の一人が突進するも鮮血を散らして崩れ落ちた。やっとの思いで、あるあるシティに着いた一同だが、心が晴れてなんていない。
壁に凭れ掛かり、荒い呼吸を繰り返す真一の右足は真っ赤に染まっている。短い悪態をつき天井を仰ぐ。
「はは……やっちまったぜ……」
傷口を抑えた右手の指の間から流れる血を達也が呆然と眺めている。頭にあるのは、何故あの死者が生きていたのか、だ。その疑問は、浩太の一言で解決することとなる。
「達也、お前のナイフ……見せてみろ……」
黙然とナイフを引き抜き、折れた刃先に瞠目する。骨というものは意外と硬く、単純な殴り合いでも拳を骨折することがあるほどだ。そんなものに向かって、これまで幾度、勢いよく突き刺してきたかなど数えたくない。
どれほど丈夫でも物には必ず限界がくる。恐らくは、達也が死者の頭に突き立てた際に、ナイフの刃は頭蓋骨を貫く直前に折れたのだろう。だが、弱点である脳に強い衝撃を受け、一時的に気絶のような現象が起きたのだろう。そして、真一が抜ける寸前に覚醒することとなった。達也は悔いても悔いきれない。この四日間、どれだけの血を浴びてきたか、どれだけの血をナイフに吸わせてきたことか。それがこの結果を招いてしまった。膝から崩れた達也の脳裏に、昨夜の出来事が甦った。
今更ながら戦姫絶唱シンフォギアってアニメにハマってしまった……超面白いwww