感染   作:saijya

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第8話

 銃声が響く中、次いで車から出たのは達也だ。開ききったエアバッグを押し退け、ボンネットから車のルーフへ飛び乗る。

 

「浩太!早く出ろ!長くは保たねえぞ!」

 

 達也へ短く返事をした浩太は、空になった弾倉を落とし、新たに取り出した一本を叩き込んだAK74を後部座席の二人に渡して言った。

 

「先に出るぞ!」

 

「俺達を死なせたくないなら、早く行ってほしいもんだぜ!」

 

 受け取った銃のトリガーを引いたのは真一だった。新崎は弾丸が尽きたのかベレッタを接近する死者へ投げつけてナイフを構える。

 

「佐伯、次はお前が行け」

 

「はっ!馬鹿かお前!ナイフ一本しかないくせに、よく言えるもんだぜ!」

 

 連続した破裂音と死者の集団が続々と倒れていく中での会話だった為、振り返った浩太の耳には届いていなかった。

 ルーフに登り死者の様子を見ていた達也が、浩太を確認する。そこで助手席に寄ってきた死者の登頂部へ一撃を見舞い、髪を掴んで割れたドアガラスへ頭から突き込んだ。

 

「どちらでも良い!次、急げ!」

 

 ルーフから飛び下り、浩太と共にボンネットから車内へ手を伸ばす。先に振り返ったのは新崎だ。

 伸ばされた手を握り、男二人がかりで車外へ引き出される。残った真一も素早く振り向き手を伸ばした。死者との距離もあり、ドアガラスは死体で塞いでいる。誰もがこれで無事に乗りきれたと考えた。けれど、悲劇はどんなときでも起きるのだろう。

 真一の全身がフロントから抜ける直前、達也が頭部を貫いた死者が蛇のように鎌首をあげ、突然、真一の股を両手で捕らえる。驚愕のあまりに全員が喉を閉め目を剥いた。

 両腕を引かれている真一に、防ぐ手段など無かった。

 

「ぐうああああああああ!」

 

 押し寄せる激痛の波に、真一が悲鳴をあげる。ズボン越しとはいえ、容赦なく顎を締める死者に、信じられない、といった表情を達也が向けた。貫いた筈の頭頂部、そこから確かに流血している。ならば、なぜ、この死者は動けているのだろうか。

 

「真一ィィィ!」

 

 浩太が絶叫とともに、死者の頬を殴れば口は右の股から離れたものの、再度、真一を喰らおうと獣声をあげ、それを新崎のナイフが止めた。改めて車外へ引き出された真一に、達也と浩太が肩を貸し、殿を申し出た新崎がエスカレーターを登りきり二階に到着すると、車を乗り越えた死者の大群が獲物を逃すまいと白濁とした眼球を上げて駆け始める。

新崎が悪態を挟むよりも早く、背中を裕介の声が叩いた。

 

「こっちです!早く!」

 

 フロアーの反対で大きく両手を振る裕介を見つけると、新崎が叫んだ。

 

「二人に手を貸してくれ!」

 


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