咳き込みつつ言った浩太は、銃を持ち上げて態勢を戻し亜里沙へ問い掛ける。短く返した亜里沙が祐介の肩を揺らせば、分かっているとばかりに、首を動かした。
「車はここに残しておきましょう。この施設を昇る方法は、エスカレーターかエレベーターしかありませんし……時間稼ぎにはなります」
祐介の提案を受け、まずは加奈子から破損したフロントを抜けて車外へ出ると、ボンネットの上で、驚愕の色を表情に表した。
破壊された出入口の先、そこから、あの地震の響きが聴こえ始めたからだろう。苦い顔付きで舌を打った真一が吼えた。
「早くいけ!俺と新崎で時間を稼ぐ!」
途端、真一が引き金を絞り銃口が光った。吐き出された弾丸が、先頭にいた男の眉間から入り頭蓋を砕く。新崎も加勢に入り駆け寄る死者を転倒させれば、多勢の死者に踏みつぶされて見るも無残な死体だけが晒されるこことなる。あまりにも生者と死者の数が違い過ぎる。焦燥を隠し切れず、浩太が声を張った。
「亜里沙ちゃん!早く!」
浩太が差し出した手を掴んだ亜里沙が身を起こした時、突如、浩太の肩を何者かが凄まじい握力で引き寄せた。頭を窓枠で強打した浩太は、割れたドアガラスの奥で、メイド姿の死者が大口を空けて肩口へと噛みつこうとしている光景に、咄嗟の判断で身体を沈め距離をとり、起き上がる勢いを利用して死者の顔面へ後頭部を打ち付けた。
「反対からも来てるぞ!浩太!」
浩太の顔を切るように突きだされた達也の右手には、ナイフが握られており、起き上がった死者の眉間を真っ直ぐに貫き、引き戻すと同時に浩太のAK74が火を吹いた。
「亜里沙ちゃん!こっちは抑える!早くいけ!」
三十九ミリの弾丸が続々と撃ち出されていく中、浩太は一瞬だけ目を落とした。残弾はマガジン一つ分、つまりは三十発、現在、銃口から吐き出されている分と合わせても五十発もないだろう。対して、迫りくる死者の人数は膨大だ。切り抜けるには、残された手りゅう弾を使うべきか。響き渡る銃声の感覚が縮まっている所から察するに、後部座席の二人も手持ちが少なくなっているのだろう。渋面し、奥歯を噛んだ浩太の背中を亜里沙が抜けていく。次に動くよう浩太が指示を出したのは、祐介だ。
反論もなく、祐介は迅速にフロントからボンネットへと到着し、二人を連れてエスカレーターを駆け上がっていく。迷っている暇などなかった。なにをやるばきか、なにをやらずべきか、その一つの判断の過ちすらが、命を晒すことに直結してしまう。
こっから先は、ちょっと現地に行かなければ厳しいです。すいません、少し期間をおきます