浜岡は、信条が口を閉ざすと共に、歩き始め、信条の傍らを通り過ぎる。予想外な行動に、目を丸くしたのは、信条だけではなかった。そして、大衆に向けて叫ぶ。
「人の繋がりとはなんだ!血筋か!言葉か!それとも、重ねた年月の長さか!違う!そうではない!人の繋がりとは!」
どん、と胸を拳で叩き、浜岡は更に大声を出す。
「心だ!歴史があろうと、どれだけの言葉で彩ろうとも、何も込められていなければ意味がない!みんな人を助けたい一心で集まったと聞いた!血縁者、友人、理由はそれぞれだろう!けれど、人を助けるとは、それほど簡単なことなのか!」
ふっ、と過ったのは田辺の顔だった。
「一人で駄目なら人数を集めるなど安直だ!自身の命を燃やすほどに考え、行動しなければ、意味をなさない!それが何かを、誰かを助けるという物事の本質だ!」
最初は、自身の正義感に振り回されている若い田辺と自らを重ねた。変化の兆しが覗いたのは、あの辞表を破り捨てた時からだ。
「団体などという便利な言葉に逃げるな!自分の弱さを隠すな!人を救うのであれば、全てを掛けてでも一人でも助けてみせる、そんな気概を持たなければならないのではないのか!」
彼は多くの苦悩を抱えることとなる。殺人鬼東、野田大臣、その娘貴子、様々な関わりが結び付き、立ち塞がる巨大な壁に遮られながらも、あらゆる困難を乗り越えた。いつの間にか、いつも一歩後ろをついてきていた田辺が、浜岡と肩を並べて隣に立っており、見送る際には、奇しくも自身が見上げていたことに気付く。多分、これが成長というものなのだろう。
浜岡が斎藤に言った、もっとも優秀な部下、との評価は間違っていない。そして、更なる大きな飛躍を遂げようとしている。田辺が貴子へ黒幕の存在を伝える時、これからが本番か、そう尋ねると、僕たちの戦いを始めます、と返した。
戦いとは、人をどこまでも高めるものなのだろうか。
「一人でも戦う!それが無ければ、望みは果たせない!意思とはそういうものだ!その姿勢が人の心を打つんだ!」
「綺麗事ばかりをほざくな小僧!」
信条が浜岡の肩を掴んだ。その手を浜岡が振り返らずに握り、低い声で続ける。
「......信条さん、こちらは人間です。綺麗事も言います。汚いことも言います。けれど、貴方が述べた思想や理念を前提に置いた話ではない」
首だけを回し、ようやく振り向いた浜岡の目付きは、まるで射ぬくような鋭さを携えており、信条は思わず後ずさってしまう。長い人生を過ごしてきた中で、これほどの強い瞳を見たことがなかった。ぶれることなく、揺れることなく、ただただ、強い思いを込めただけの黒目に臆した信条は、掴んだ手を離そうとするが、浜岡の手に阻まれた。
リベラル派排除とかふざけんな