一際、大きな喝采があがった。
プラカードが激しく揺られ、口々に浜岡への野次が飛ばされる。
口角を曲げた信条は、津波のような大声を、まるでコーラスのように流しながら両手を掲げた。しかし、その行為は突如として耳に入ってきた笑い声で止まることとなる。怪訝な視線で見渡した信条の視線は、腹を抱えて、膝を折った浜岡にぴたりと合わさった。眉を寄せ、信条は静かに訊いた。
「......何が可笑しい?」
浜岡は、ひとしきり笑い終えると目頭に溜まった涙を左の人差し指で拭い、身体を起こすと、一息ついた。
「いやいや、すみません、ついつい可笑しくて可笑しくて......日本人の誇り、詭弁に惑わされる若者と......いやぁ、まるで、アドルフ・ヒトラーですね。それとも、思想という点を付けるのであれば、石原莞爾も外せませんかね......」
信条の瞳に、ぐっ、と力が入り、明らかな嫌悪感を示す。隠さずに冷たく言った。
「ヒトラーなどと比べるな!私は違う!」
浜岡は首を横に振ると冷静な口ぶりで返す。
「いえ、なにも変わりませんよ。そちらも説明が必要ですか?日本人の誇り、矜持、そのような主張が全面に押し出されている、その点です。歴史に対する優越感を得られる奇術のような言とは、いつの時代も便利なものです」
目くじらをたてた信条が反駁する。その瞳には、決して逃さないという意思が宿っている。
「ならば、ゴビノーの人種不平等論を盾に、アーリア人などという存在せぬ人種を作り上げた男とは違うではないか。日本人には、はっきりとした確かな歴史がある」
「まだ、理解が及びませんか?全く、貴方も耄碌してしまいましたか......歳はとりたくありませんねえ......それならば言い換えましょうか?こちらに思想はあっても、あちらに思想はない、とでも言いたいのですか、と」
溜め息混じりに述べた浜岡に、怒りを顕にしたのは信条のボディーガードだった。固めた拳を浜岡の右頬へ叩きつける為に、大きく弓を引き放つ。ほぼ同時に動き出した斎藤を左腕で制止した浜岡は、頬骨に走った鈍痛と共に地面に倒れた。その姿を黙って見ているほど、斎藤はお人好しではなく、怒声を一気に振り絞った。
「浜岡!」
狼狽した斎藤の悲鳴にも似た声は、ボディーガードの男を睥睨した途端、嗔恚を宿した声に変わる。
「貴様ァ!」
男も身構える。今にも飛び掛かろうとする斎藤の足を止めたのは、自身の背に打ち付けられた怒声だ。
「斎藤さん!」
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