それぞれが、そう思索しているのだろうか、加奈子の怯えからくる振動が、浩太の座るシートへと伝わってくる。
「どうする浩太?」
運転席から答えを求められた浩太は、懊悩した末、切り出すように言った。
「......このまま進もう。時間には余裕があるが、出来るだけ早く到着しておきたい」
浩太の提案に、阿里沙が返す。
「良いんですか?ここから先、何かがあるかもしれませんよ?」
「それなら尚更だ。わざわざ、裏道に回って狭い道路を走るより、少しでも広いほうが対応しやすい」
助手席からの声に、阿里沙は納得したようだ。浩太は念のため、もう一度、全員へ確認をとり、異論がないことを認めてから、達也へ頷いてみせた。
アクセルを柔らかく踏み、達也が呟く。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか......」
さわらびモール前の十字路を右折し、春の町へと入る。
外の景色は、相変わらず同じだった。散らばった四肢をタイヤに巻き込まないよう注意しつつ、達也がハンドルを慎重に操作していると、不意に祐介が頓狂な声をあげ、怪訝に眉間を下げた真一が尋ねた。
「どうした?」
あれ、と祐介が指差したのは、道路に横になった死者だ。もう動くことはない証拠とばかりに、頭蓋の半分が砕かれ中身を散乱させている。しかし、真一は祐介が死体のどこを疑問に思ったのか分からず首を傾げた。
「何が気になったんだ?正直、分からないぜ?」
キッ、と車を停め、車内の全員が問題の死体を眺めた。あまり、気分の良いものではないが、確かに妙な違和感を覚える。その不一致さに、いち早く気付いたのは新崎だ。
「......噛み殺されている?」
「何を当然のことを......」
鼻を鳴らした真一をよそに、その一言を受け、浩太が改めて傷口を凝視する。
仰向けに横たわる死者は、上顎から後頭部にかけて失なわれており、残された傷は、スッパリと切り取られているなどではなく、鋸状になっていた。それも、ドアガラスから窺える僅かな部分ですら分かるほどに深い。
「......ついに、死者同士で共食いでも始めためたってのか?胸糞悪いぜ」
「......違うな、あれは動物の仕業だ」
真一の見解に応えたのは、新崎だった。
「傷の広さからすると、恐らくは大型だろう......犬か?」
とある記憶が脳裏を過り、真一と祐介が一気に目を剥いた。八幡西警察署へ武器を回収した際、二人は転化した犬に襲われている。二人は同時に視線を交差させると、お互いに首を縦に振った。