感染   作:saijya

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第10話

 東がビッ、とステンドグラスを指差す。その背面から明るい光が差し込んできて、正面から顔を照らしたが、瞬きもせずに一息に声を荒げた。

 

「過去を遡れば、テメエはいつも高みの見物をしてやがる!神だぁ?だったら降りてきてみろや糞野郎!人間にことなんざ、生まれた瞬間から、ゆっくりと死に向かう家畜だとでも思ってんだろ!ようやく血にまみれて、こっちと同じになったんだ......奇跡のひとつでも起こして証明してみろや!」

 

 肩で荒い息を繰り返しながら捲し立てた東は、一呼吸いれて、だらんと腕を下げた。その先には、もう、囁くような唸りもあげようもないほどの損害がある安部の首があった。

 額から溢れだした脳の一部を掌で掬い上げ、それを口へと運んでいく。グチャグチャと下品に歯で擂り潰し、空っぽになった頭蓋を一気に噛み砕いていく姿は、二人が使徒と呼ぶ者達と瓜二つだ。

 

「善と悪、それが揃って初めて人間、それなら、俺達は人を超越した完璧な人間だ......俺達だからこそ、成し遂げられる。以前はなにになるかが重要だったが、今は誰になるかだ。分かってくれるだろ安倍さん、俺達だからこそ......」

 

 安部の頭部は、目に見えて小さくなっていく。そして、最後に残った耳を拾い上げ、顎をあげてから口に運ぶと、眼を閉じて味わい、喉を細かく上下させ、満足気に吐息を洩らして言った。

 

「この世界の神になれる。そうだろう、安倍さん……?だからよお、テメエは、もう用無しだよ……神様」

 

 最後の手向けとばかりに、中指をステンドグラスに向けて立てた東は、嫌な事を思い出したと舌を打ち、眉を寄せて不機嫌さを滲ませながら、スーダンを翻す。

 

「邦子、置いてっちまうぞ……早く来いよ」

 

 短い返事のあと、重厚な扉が横倒しなっているのを発見する。さきほど訪れた使徒の一団が破壊したのだろう。

 その木製の扉を踏みつけ、東は小倉の市内を見渡す。

 血と煙と呻き声、それらが小倉駅方面から響いてきていることに気づき、三日月形に口角をひりあげた。

 

「さぁ......選別の時間だ......ひゃーーははははは!」

 

 目に入る情報は、その量を増していくと、単純な暴力の数を増やしていく。この九州地方も含めた日本は、あまりにも優しすぎた為に極端な暴力に弱い、そんな内面が見え隠れしている。

 東は、そんな世界に負けることはない強い人間を探し出す為に、新たな一歩を踏み出す。時計の長針は、朝の九時、太陽が真上に昇り始めた時刻だった。




UA数57000突破ありがとうございます!!
それと、この部が終了したら、次回の章にいくまえに少し本文とは関係ありませんが遊ばせてもらいます!(あと一話か二話ですが)w

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