感染   作:saijya

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第13話

 放たれた二発のミサイルが、関門橋を完全に破壊した裏付けのように水柱が、空中でバラけ、雨のように浩太へ降り注いだ。

 口に入る塩水を不快そうに吐き出し、立ち上がった真一が、焦点が定まらないまま、なんとか声を振り絞った。

 

「……下澤さんは?」

 

 浩太は、頭を何かで叩かれたように下澤と岩下がいた関門橋へと視線を向けた。

バリケードの先、関門橋の全長は約19キロある。

 入り口から3キロ程の地点に、砂埃から突き出た腕が見えた。浩太は焦って走り出す。

関門橋を打ち壊したさせたという事は、アパッチの乗組員には何かしらの目的がある。

 そして、それは決して浩太達に対して友好的だということはない。その上、暴徒達もいるのだから、次に何が起きるか分からない。

 

「下澤さん!大丈夫ですか!」

 

 滑り込むように下澤の手を取り、引き上げた浩太は、掴みあげた際の不一致さに寒気がした。

 軽い。

 下澤は自衛官だけあり体格が良い。だからこそ、この軽さは不自然だ。浩太は、手首から先に視線を伸ばせなかった。ただただ、見るのが怖かった。だが、この違和感を拭う為には、そうしなければならない。

 受けるであろう喪失感、耐えきれない程の悲しみ、そして、腹から吹き出そうとしている黒い塊。 その正体を知る為に、浩太は視線を落とした。

 

「うわあああああああああああああ!下澤さあああああああああん!」

 

 浩太の眼界に飛び込んだ映像は、手首から先が千切れた状態の変わり果てた姿だった。身体の原型は、ほぼ留めていない。辛うじて判別がついたのは、下澤の首らしき場所から下げられたドッグタグだけだ。

 戦車すら容易く葬りさるアパッチのミサイルが生み出す爆風が生身の身体に直撃していたのだろう。

 下澤に肩を抑えられ、前にいた岩下は、もう何も残っていない。

昨日まで軽口を叩きあった相手は、今、自分の目の前にある肉の塊だという事実が、信じられなかった。信じたくなかった。浩太は理解した。あの黒い塊は虚無だ。背後には、有り得ない復帰の早さで、再び生きる者を襲い始めた暴徒、正面には、雲の梯となった、決して越えられない橋、救援にきた筈のアパッチが鎌を携えた巨大な死神に思えた。

 もう、何もかもがどうでも良くなってくる。浩太は両膝をつき、砂埃の向こうにいるアパッチを仰いだ。

 プロペラが起こす風圧で散っていく瓦礫や埃の数が増えていく。アパッチが接近しているのだろう。

 

「浩太!下澤さんは無事か!?」

 

 真一の呼び掛けに、一向に振り返る素振りがない。まさか、と胸が騒ぎだした真一は足を止めた。




嫌いなキャラNO1
岩下に決定w

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