真一が、銃口を新崎から外すことなく、車に身体を預けながら、工場の入口を一瞥して言った。
「......お前の気持ちも分かるけどよ、先に進むなら、相応のリスクってもんは付き物だぜ?それは、あいつらも分かってるだろうぜ」
これまでの経験もあるしな、と真一が三人の前では口にするのも憚れる一言を小声で付け加えた。蛇足ではあるが、三人に対する信頼が窺えた。そこで、工場の入口から、三人が姿を現すと、浩太は、諦念の息を吐き出して何も言わずに頷く。
「......分かった、桃園から小倉へ向かおう。三人には俺から話して良いか?」
そう確認をとられた達也は、納得したのか車の運転席へと戻っていき、同時に祐介が視線で達也を追いかけつつ、浩太に声を掛ける。
「達也さん、どうしたんですか?何も言わずに、車に乗っちゃいましたけど......」
「ああ、気にしないで大丈夫だ。小倉までのルートが決まったから、車のエンジンを暖めてんだろうよ」
得心したのか、祐介は刻んで首を縦に動かした。加奈子を抱き上げた阿里沙は憮然とした顔付きのまま、車のフロントを眺めていたが、ぱっ、と表情を変えて、浩太を見る。
「それで、どんな道で行くんですか?」
「ああ、桃園を通って八幡東を経由して行こうと思ってる」
「スペースワールドの裏側からって意味ですか?」
「まあ、そうなるかな」
阿里沙は、特に反論もなく加奈子を腕から下ろし、自身の腰に差していた拳銃を取り出すと、浩太に渡してから新崎を打見して頷いた。その意味を汲み取った浩太は、祐介の肩を軽く叩いて新崎のもとへ歩く。途中、新崎に着いたままの真一が凶悪な仏頂面をしていたが、下がることのない溜飲を抱えたままでは、それが直接、危険を招くと、自分の気持ちに折り合いをつけたのか、小さな舌打ちで嫌悪感を示したのみに止まった。
「......新崎、お前の銃だ。渡せる弾丸は少ないから、大切に使えよ」
浩太から、しっかりと拳銃が手渡され新崎は瞠目したのか、手元の銃と浩太の顔を二度、三度と繰り返し眺めてから言った。
「......良いのか?俺に武器を渡しても」
真一が鼻を鳴らす。
「あいつらに感謝したほうが良いぜ、俺は銃を持たせるなんざ、今でも反対だけどな......」
新崎は、祐介と阿里沙をみやり、銃を握り締めた。
「新崎、絶対に生き延びてやるって気持ちはお前も同じだよな?だからだよ、あいつらは、生き延びる為に、お前の力が必要だと言ったんだ。そして、自分達で俺に銃を渡してくれた。その意味を理解してくれ」