感染   作:saijya

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第26部 作戦

 九州と連絡がとれた翌日のことだ。警視庁の会議室に、田辺の声が反響する。

 

「もしもし!もしもし!」

 

 何度となく呼び掛けてはみるものの、電話の先から聞こえてくるのは、機械の音声だけだった。受話器を置いても、時間を空けても、やはり結果は同じだ。警察署内の広い会議室に集まっていた八人全員が固唾を呑んで見守る中、これで何度目になるのかと、首を振った田辺に諦めの息を吐き出した。

 田辺、浜岡、斎藤、野田、藤堂、野田の雇った男性三人、各々が重い表情で椅子に腰かけている中、田辺が荒々しく机へ拳に降り下ろす。

 

「......伝えられなかった。僕は、彼に伝えなければならなかったのに......」

 

 田辺が悔やんでいるのは、新崎優奈の一件だ。

 自身が引き絞って放った一発の銃弾が、新崎優奈の頭蓋を破壊して死に至らしめたのだと、言うべきだったのだと頭を抱える田辺へ浜岡が言う。

 

「田辺君、伝えなかったのだと悔やむのならば、彼を絶対に救い出せば良いんじゃないかい?それに、伝えなかったのは正解だったかもしれない」

 

「そうだな。娘の為に、これだけのことを仕出かした男だ。死んでいるとなれば、命を諦めてしまうかもしれない」

 

 浜岡の言葉に頷いた斎藤の声で、田辺は目線を上げた。

 これで良かったのだろうか、などと口を開いている場合ではないだが、今になって新崎優奈の生命を断ってしまったことに、とてつもない罪悪感を覚えてしまう。それは、野田としても同様だ。考えを切り替えなければならない。そうしなければ、いつまでもこのまま時間だけが無為に過ぎてしまう。

 田辺は気を入れる為に、両頬を強く叩くと、静まりかえった会議室に着信音が響き渡り、全員の顔が藤堂へと向けられた。やや、狼狽を見せながら、藤堂が携帯を耳に当て、二度、三度と返答を繰り返し、頭を下げて電源を切り、同時に田辺が尋ねた。

 

「......どうでしたか?」

 

 藤堂は、短く溜め息をつく。

 

「大丈夫だ。ヘリを飛ばす許可は下りた、あとはお前達次第だ」

 

「俺は行かせてもらう。いや、俺は行かなきゃいけないんだ......」

 

 真っ先に手を挙げたのは野田だ。それに異論を唱える者はいない。

 

「僕と野田さん、あとは......」

 

 田辺がちらっ、と見たのは、隊長と呼ばれていた壮年の男と先輩、後輩と呼びあっていた部下二人組みだ。若い男は、言われるまでもないと名乗りをあげるも、もう一人は渋い顔付きでそっぽを向く。

 

「......俺はごめんだ。あんな奴等がうじゃうじゃいるとこなんざ、命が幾つあっても足りないしな」




第26部始まるよ
すいませんです!
徐々に時間できてきたんで、頑張ります。

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