「......明日には、この地獄から離れられるんだな」
「そうだな......」
工場の外、浩太の一人言のような囁きに、真一が律儀に返した。
他が静かな寝息をたてる中、どうにも寝付くことができず、見回りでもしようと起き上がった真一は、膝を抱えたまま、踞っていた浩太に声を掛け今に至る。
二人は、車まで歩き、タイヤに裂け目やパンクに繋がりそうな傷がないかなどを入念に確認した後に、改めて周辺を窺う。
「......今でも......信じられないんだよな......」
「ん?なんだよ浩太」
不意に言った浩太は、ほんの僅かだけ目尻を下げた。
「俺達が暮らしてきた場所が、こんな地獄に様変わりしたこと......だな。言うだろ?銃を使った人間は幸せになれないってさ......だけどさ、はっきりしない靄を抱えてきたけど、田辺さんと電話で話して、ようやく晴れた」
深く吐息をつき、拳銃を一瞥した浩太に、真一は何も返さずに言葉を待った。
空にある無数の星は、姿や形を変えて同じ夜空に浮かんでいる。地上や海上で、どれだけの変化があろうとだ。
東京でも、似たような事態が起きつつあるとすれば、物事が悪い方向へ流れ出す際、湖に手を差し入れた時のように、濁りが波及するのは、とても早いのかもしれない。
だが、それでも、人々は助け合いたいのだろう。浩太は、そんな人間の根底を田辺を通して見ることが出来た。
棚から落ちてきた希望は、掴んでこそ意味がある。
「例え、銃を使ったからといって、奇跡ってやつは......希望ってやつは、まだ捨てたもんじゃないのかもな......」
車のボンネットに寝そべった浩太は、果てなく続く夜空に手を伸ばす。そんな様子を傍らで見ていた真一が、短く笑う。
「随分と、ロマンチックなったもんたぜ......なあ、奇跡って言葉の語源を知ってるか?」
首を振っただけで返した浩太に、真一は続けた。
「少数の部隊が大勢の敵に囲まれて、玉砕覚悟で突入した。けれど、その大部隊は野営地だけを残して消えていたんだとよ。残されていたのは、野営地に所狭しとある、この世にいる生物とは思えない奇妙な足跡だけだった、それから奇跡って呼ばれるようになったらしいぜ」
「そりゃ、興味深い話しだな」
「だろ?まさに、今の俺達と同じだぜ」
浩太は、鼻で一笑して立ち上がった。
「なら、起きるだろうな、奇跡ってやつがさ」
「浩太、奇跡ってのは、自ら起こすもんなんだぜ。それ以外は、努力ってんだ」
浩太は、とんだ屁理屈だと一蹴してみせた。だが、地獄に置かれた身体を奇跡に預けるには、心許ない。
やはり、努力の賜物のであろうことは、否定しようのない事実なのだろう。そこには必ず、死んでいった仲間達の思いもある。小倉の基地で失った命、関門橋で散った下澤や民間の人々、多くの犠牲があった。明日、全てが終わる。そう信じて、浩太は、仲間の待つ工場へと踵を返した。
すいません、忙しくて6月過ぎました……
そして、まだ忙しいです……
しかも、嘘つきました。ここは、この部数にいれておかなきゃだめだと思いました……
本当、すいません!まだ、ちょっと忙しい時期が続きそうです……