感染   作:saijya

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第23話

 ぎりっ、と血を滲ませた真一の唇からは、途切れ途切れに息が洩れだしており、はっきりとした憤懣を顕にしつつ、頭を切り替える為に長い呼吸をしてから浩太へ言った。

 

「それで、だ。浩太、こいつをどうする?」

 

「......どうするって?」

 

「決まってる、ここに置いていくのかどうかだぜ。論点がズレそうになってたけど、もともとは、新崎を連れていくのかどうかって話だ」

 

 びくり、と顫動した新崎は、恐々と真一を仰ぐ。

 その目付きから察するに、真一は連れて行くことなど微塵も考えていないだろう。それほど、眼光が冷めきっていた。

 判断を委ねられた浩太が、答えあぐねていた時、祐介が右手を挙げた。

 信じられないとばかりに、首を振る真一を一見はしたものの、しっかりとこう口にする。

 

「俺は連れて行っても良いと思います」

 

「祐介......お前、それがどういう意味か分かって言ってるんだよな?そんな、簡単に答えを出して良い問題じゃないんだぜ?」

 

 緩急をつけた口調だが、すっ、と心には入ってこなかった祐介は、一度だけ首肯すると、分かっていますと前置きを加えた上で心境を吐き出す。

 

「けれど、やっぱり親ってのはそうなんじゃないかと思うんです。俺の親父とお袋もそうだった......二人とも俺達を身を犠牲にして助けてくれた。俺は親にはなれないけど、その気持ちはわかっているつもりです。だから......」

 

「......あたしも......連れて行くことには、賛成......です」

 

「阿里沙ちゃんも......改めて聞くけど、こいつは、二人の両親を間接的に殺したってことだぜ?それでもか?」

 

「勿論、許せない。だけど、あたしや祐介君よりも武器を扱える強みがある......今は生き延びることを優先すべきだと思う......そうしなきゃ、きっと彰一君だって怒ります......」

 

 阿里沙と祐介の意見は、趨勢を見越した上での発言でもある。感情が先走りつつある真一は、入り込む余地がなくなり、困り顔のまま、達也に助成を促そうとしたが、顔を逸らされてしまう。恐らくは、彰一の件もあり、口出しなど出来ないのだろう。

 諦念の息をついて、真一は浩太へ言った。

 

「......分かった......民主主義万歳だ畜生......けどな、新崎の背中は俺に預からせてもらうぜ。何か起きそうなら、真っ先に糞野郎の心臓をぶち抜いてやる為にな」

 

「......ああ、それで良い。みんなも同じでいいか?」

 

全員が一斉に頷いたのを視認して、浩太は続けて言った。

 

「じゃあ、これからのことを説明する。まず、目的地は小倉のあるあるシティってとこだ」

 

 その間、浩太の言葉に耳を傾けながらも、終始、阿里沙は達也を、真一は新崎を盗み見ていた。

 生まれた軋轢はあるものの、それぞれが差し込んだ光明へ手を伸ばし、脱出へ向けてのスタートを歩み始めた。




痴漢冤罪……
いやあ、東京って怖いわーー……

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