言葉の終わりに、新崎はすがるような視線を加奈子へ預けたが、怯えた表情で阿里沙の背中に隠れてしまう。
「重ねて悪いが、あの娘は両親を死者に殺されたショックで言葉を発することができない。それも、お前が招いたことだ、新崎」
新崎は愕然としたのか、顔付きが一変する。それを見逃すことなく、浩太は目元を暗くした。
「......なんか、思うところがあるみたいだな」
「......俺は......俺には、優奈という娘がいる......」
「優奈って、さっきお前が叫んでいた......」
ああ、と低く頷いた新崎は、顔をあげて、もう一度、加奈子に目を向ける。
「......その娘は、亡くなったのか?」
「いいや......ウェルナー症候群という不治の病に犯されている......」
聞き慣れない病名に、全員が眉を八の字に曲げるも、構うことなく、新崎は語り始めた。
「早老症と言えば分かりやすいか。その病気は、現代の医学でも解明できない難病でな......優奈は......もう限界だった......いや、俺よりも早く、外見だけでも年老いていく優奈に耐えられなかったんだ」
そこで、何かに行き着いた阿里沙は俯いて、加奈子を抱き寄せた。もしも加奈子が、と想像してしまったのだろう。その行動に浩太は首を傾げたが、あまり気にせずに新崎へ目線を戻す。
「荒んだ俺にとって優奈は天使だった......本当に辛かったんだ......だから、奴の口車に乗ってしまった......」
「......奴だと?そいつは、誰だ?」
抑揚のない喋り方で尋ねた真一は、見るからに怒りを抑え込んでいた。爆発しないよう、達也と祐介が周辺に座っているが、今にも飛びかかりそうな怒気が伝わってくる。
そんな居心地の悪さの中で、新崎は喉の奥から絞り出すように、ある男の名を告げた。
「......野田だ。娘を治す治療薬があると、莫大な金額を提示された......俺は、娘を助けたい一心だった......」
「要するに、アンタは多くの命よりも娘一人の命を優先させた。そうだな?」
きっぱりと言い放った浩太の目を、どうにか顔をあげた新崎が見据えて首を縦に動かす。瞬間、真一が背中を預けていた壁を無造作に殴り付けた。響いた音に、加奈子が肩を震わせる。
「......そんなことまでやってやがったのかよ......やっぱり最悪な気分だぜ......よりにもよって、この事件の張本人が助けにくるなんて、どんな皮肉だよ、クソッタレが......」